研究課題/領域番号 |
23790363
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大坪 和明 大阪大学, 産業科学研究所, 招へい准教授 (30525457)
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キーワード | 糖鎖修飾 / グルコーストランスポーター / 膵臓β細胞 |
研究概要 |
本研究課題では「糖鎖機能を標的とした膵臓β細胞の機能保持・回復のための基盤研究」として、糖鎖異常によるグルコーストランスポーター(GLUT)機能障害の分子メカニズムの解明を重要な目的と位置づけている。H24年度はGLUT2の糖鎖異常が膵臓β細胞膜上でのマイクロドメイン局在に及ぼす影響について解析を行った。これまでの研究からGLUT2のβ細胞表面での発現には自身が持つN-型糖鎖とガレクチン9との結合が不可欠であることを明らかにしてきた。また、GLUT1の糖輸送活性が脂質ラフトに存在するストマチンとの結合により阻害されることが判明している。GLUT1と2の高い相同性から糖鎖異常を介したGLUT2の発現・機能異常に脂質ラフト局在を介したストマチンとの相互作用が関与していると考え解析を行った。その結果、通常GLUT2は非脂質ラフトに局在するが、GnT-IVa欠損マウス膵臓β細胞ではGLUT2が脂質ラフトに移行していることが判明した。また、単離β細胞の培養系にラクトースを添加することで、GLUT2とガレクチン9との結合を阻害するとGLUT2が脂質ラフトへ移行することが観察された。これら脂質ラフトへの移行と一致して、グルコース輸送機能の低下が観察された。また、脂質ラフトの破壊によりグルコース輸送活性やインスリン分泌機能の回復が観察された。このGLUT2の脂質ラフトへの移行と一致して、GLUT2とストマチンの相互作用が観察された。以上の結果は、GLUTの糖鎖修飾が細胞膜上でのGLUTの局在を制御していることを意味しており、糖尿病発症過程における糖鎖形成異常が、グルコースセンサー機能を障害する分子メカニズムの一部であることを示している。本研究成果は本研究課題を推進する上で非常に重要な知見であり、Ohtsubo et al, BBRC, 2013. In pressに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの本研究課題の実施状況は、[H23年度]には、ヒト糖尿病のメカニズムの解明を目指した共同研究が予想よりも非常に早期に完了し、その成果を得ることができた。しかも、本成果がこれまでの我々の研究結果と非常に一致していることが判明したことから、本研究が目指す「糖尿病抑制因子GnT-IVaを標的とした新規糖尿病治療薬開発」が非常に現実的であり、しかも、本研究成果が実際のヒトの2型糖尿病の治療に直結することを強く示す知見であった。[H24年度]には、糖鎖異常によるグルコーストランスポーター(GLUT)機能障害の分子メカニズムの解明につながる、糖鎖修飾によるGLUT2の細胞膜表面でのマイクロドメイン間移動と、その機能制御の相関を解明することができた。膵臓β細胞膜表面でのGLUT2の局在変化の分子メカニズムはこれまで全く不明であったが、この知見により2型糖尿病発症過程におけるβ細胞機能異常のメカニズムの一部を合理的に説明することができる。背景にある全てのメカニズムの詳細を解明できたわけではないが、本研究課題の目的は概ね達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究では、スクリーニング用細胞を用いて、Mgat4aプロモーター活性化を指標として化合物バンクのスクリーニングを行い、候補化合物の探索を再度行う。得られたヒット化合物についてMgat4a発現誘導のメカニズムを細胞レベルで解析する。具体的には①EMARS反応によるヒット化合物を認識する受容体のビオチン標識・精製と質量分析による同定を行う。加えて②抗体アレイ解析による細胞内下流シグナル伝達系の解析を行い、Mgat4a Tgβ細胞内シグナル伝達系と比較検討する。同時に③ヒット化合物について細胞毒性試験を実施し細胞レベルでの安全性試験を行う。 さらに細胞レベルでの薬効が確認されたヒット化合物について、高脂肪食負荷マウスへの投与実験を行い、β細胞におけるMgat4a発現、タンパク質の糖鎖修飾、GLUT2のβ細胞内局在、β細胞のインスリン分泌機能を解析することにより、個体レベルでの薬効評価を行い、リード化合物を得る。また、引き続き高脂肪食負荷マウス膵臓β細胞の機能解析、とりわけシグナル伝達機能の変化に焦点を当て研究を進める。 加えて、糖鎖修飾による脂質マイクロドメインを介した分子機能クラスター形成を解明するため、EMARS法により、細胞膜マイクロドメインに局在するGLUT2またはGPCRと相互作用している分子群をビオチン化し、精製後、質量分析により分子の同定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究では、生化学的解析、分子生物学的解析、質量分析による分子の同定、マウス個体を用いた生理学的解析など幅広い実験手法を用いた実験を多用するため、それに係る試薬・消耗品を購入したい。また、高脂肪食負荷マウスを用いた動物実験を実施するため、かかる動物飼育・管理費用に研究費用を充当する必要がある。これらが主な研究費の支出項目である。また、加えて本研究より得られた成果を生化学会大会等の学会で発表するための旅費を支出する予定である。
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