研究課題/領域番号 |
23790371
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
廣田 有子 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (50588259)
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キーワード | オートファジー / ミトコンドリア |
研究概要 |
オートファジーは細胞内における主要な分解メカニズムのひとつであり、生体の恒常性維持に大きく寄与している。これまで酵母による研究から30以上のオートファジー(ATG)遺伝子が同定され、ヒトを含む高等真核生物でもこのATG遺伝子が保存されていることから、真核生物間でほぼ共通の分子機構を持つと考えられてきた。しかしながら、近年、酵母におけるオートファジーに必須とされるAtg5やAtg7非依存的に誘導されるオートファジー経路の存在が報告されている。本研究は、申請者らが新規に開発中のきわめて簡便なオートファジー観察システムを用い、未知のオートファジー遺伝子や経路を発見し、その機能解析を行おうとするものである。本年度は、ヒト培養細胞を用いた検討を主とし、Atg5/Atg7に非依存的なオートファジーに関与する因子として昨年度同定したMAPKのErk2およびp38のミトコンドリア特異的オートファジー(マイトファジー)への制御メカニズムについて詳細な検討を行った。本研究では、pH依存的に異なる励起波長をもつKeima蛍光タンパク質を用いた新規の手法を一貫して用い、バルクなオートファジーあるいはマイトファジーを検出し、Erk2およびp38はいずれもマイトファジー特異的な制御因子であることを明らかにした。さらにマイトファジーを誘導する方法を数種類同定し、いずれにおいてもこれらのMAPKが関与するが既存のmTOR経路を介したオートファジーには関与しないことを明らかにした。これらの結果は、既存のオートファジーとは異なるMAPKシグナル経路によってマイトファジーが制御されていることを示唆しており、新たなオートファジーの分子メカニズムを解析するにあたって、非常に重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した当初の予定のとおり、前年度同定したマイトファジーに関連する新たな因子の機能解析を行うことができた。世界中で行われてきた研究により、バルクなオートファジーに関連する遺伝子はこれまで多数同定されてきたが、ミトコンドリア特異的オートファジーに関連する遺伝子はPARK2などパーキンソン病に関連する遺伝子しか同定されていなかった。この場合のマイトファジーはParkinタンパク質の発現に依存していたため、Parkinを発現していない細胞・臓器におけるマイトファジーについてはほとんど知見が得られていなかった。本研究で用いた細胞株はParkinを発現しておらず、Parkin依存的なマイトファジーを誘導するために用いられるミトコンドリア脱共役剤などの薬物処理を行わず検討しているため、既存のマイトファジーとは異なる新たなマイトファジーシグナル経路であることを示すことができた。さらに申請書に記載した計画のように、既知のオートファジー経路への関与についても、オートファゴソーム形成ならびにリソソームでの正常な分解に関して顕微鏡やウェスタンブロッティングなどで検討を行った。当初の予定にはなかったが、より詳細にマイトファジーを観察するため透過型電子顕微鏡による形態観察も加えて行った。以上のように、当初の予定どおり既存のオートファジー経路への関与ならびにオルガネラ特異的なオートファジーの制御について明らかにすることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、さらなるマイトファジーの詳細なメカニズムを解明するため、Erk2およびp38とミトコンドリアを繋ぐ下流因子の同定を試みたいと思っている。酵母ではミトコンドリア外膜上に局在するAtg32がマイトファジー関連因子として機能していることが明らかにされているが、哺乳類細胞においてマイトファジーの直接的な因子は未だに同定されておらず、MAPKのシグナル経路の下流に位置すると考えられる当該因子を同定することは、傷害を受けたミトコンドリアの選択的分解メカニズムの解明において非常に重要な意味をもつと考えられる。 そこで、Erk2およびp38のGST融合タンパク質を用いたpull-down assay等のin vitro実験あるいは免疫沈降法によるin vivo実験を行う。それらの実験により同定された相互作用因子とマイトファジーとの関連について機能解析に発展させるため、各タンパク質の変異体・欠失体を用いて相互作用ドメインを特定し、マイトファジー機能の促進あるいは阻害作用への寄与について検討する。また、相互作用タンパク質のノックダウン時、過剰発現時におけるマイトファジー誘導や程度についても検討を行いたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に当初の予定以上に研究が進んだため、本年度に使用する予定であった試薬や機器、消耗品などの購入が当初の予定より比較的小額で済んだため、次年度使用額が発生した。次年度はpull-down assayや免疫沈降法等の生化学的実験を主に行う予定であるため、これらの実験の試薬等に使用する予定である。また引き続き、本研究はヒト培養細胞を用いて行われるため、細胞培養用ディッシュ、フラスコや抗生物質、血清等の細胞培養用試薬や種々の変異体の高効率な導入にトランスフェクション試薬が相当量必要になると考えられる。さらに次年度は最終年度であり、得られた研究成果をまとめて速やかに発表を行う必要があるため、学術雑誌へ投稿および学会発表するための費用としても使用する予定である。
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