NDRG2(N-myc downstream regulating gene 2)は多くの固形がんにおいて特異的発現低下が見られ、がん抑制遺伝子として知られる。我々は成人T細胞白血病や口腔がんの解析からNDRG2がPI3K/AKT情報伝達系の活性抑制に働くことを発見し、さらなる解析を進めるためにNDRG2 欠損マウスを作製した。組織からのタンパク質を使ったウエスタンブロットで、特に脳、心臓、肝臓でNDRG2の発現が高く、ホモ欠損マウスでは完全に発現が消失している一方で、AKTリン酸化が増加していた。長期間(6-24ヶ月)飼育すると、NDRG2欠損マウスでは生存率が低下した。死後解剖してみると肝臓、肺などの臓器に腫瘍が見られ、リンパ腫と思われる腫瘍も認められた。またNDRG2欠損マウスでは脂肪肝や心肥大を起こしていた。NDRG2はがん抑制遺伝子として働いている一方で、心疾患や循環器疾患の発症にも関与している可能性を示唆した。 NDRG2欠損マウスでは加齢に伴い耐糖能が変化し、絶食後グルコース値が増加しており、また、病理学的所見から肝臓に脂質の蓄積が認められた。心臓においても重量の増加、心筋の肥大が認められ、NDRG2欠損による循環器疾患の発症が明らかとなった。 発がん物質投与により、NDRG2欠損マウスでは肝臓等に腫瘍が誘発されていた。 腫瘍形成および循環器疾患の発症のメカニズムとして、NDRG2はPTEN/AKT/GSK3betaのリン酸化を減少させ、またIKK/IkBa/NFkappaB系を制御していることが明らかとなった。NDRG2はPTENと直接結合することによりPTEN活性を調節し、下流シグナルを制御している可能性を示唆した。NDRG2の発現低下がこれらのシグナル伝達系の異常な活性を惹起し、ひいてはさまざまな成人病を引き起こす可能性を示唆した。
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