研究課題/領域番号 |
23790379
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
堀越 洋輔 東海大学, 医学部, 奨励研究員 (60448678)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞極性 / 酸化ストレス / aPKC-PAR |
研究概要 |
炎症反応などによる酸化ストレスは、細胞・組織の傷害や癌の浸潤・転移に関与する可能性が示唆されている。しかし、酸化ストレスの細胞極性に対する作用についての詳細は不明であった。脂質は酸化ストレスに対する感受性が強く過酸化を受ける事から、脂溶性情報伝達物質であるイノシトールリン脂質(PIPs)の過酸化は、その作用(機能)が変化すると考えられる。申請者は、酸化ストレス刺激により、上皮細胞のPIPsの局在変化とその代謝に関わるPI3キナーゼシグナルの活性変化が誘導される可能性を見出した。また、aPKC-Par複合体の形成阻害と局在変化を見出し酸化ストレスにより細胞極性の異常が誘導される事を発見した。これらの事から、「酸化ストレス→イノシトールリン脂質の過酸化→aPKC-Par複合体の機能異常→細胞極性の異常」というカスケードが存在する可能性が浮上してきた。平成23年度は、酸化ストレス傷害モデルラット肝組織を用いてin vivoにおいて酸化ストレス刺激によりaPKC-Par複合体の形成阻害の分子メカニズムについて詳細に検討した。その結果、イノシトールリン脂質シグナル(PI3キナーゼシグナル)の活性が確認された。この時、aPKCの過剰活性化が生じていることをin vitroリン酸化実験により明らかとした。さらに、電子顕微鏡を用いた超微細構造の観察を行ったところ、毛細胆管の異常が生じている事を突き止めた。平成24年度では、ヒト毛細胆管構造の異常が観察される胆汁鬱滞モデルマウスを用いてaPKC-Par複合体の形成およびaPKC活性変化について検討する。本研究にから、酸化ストレスによる細胞極性制御の異常によりヒト病態の発生に関わる事が明らかとなれば、細胞極性の変化が観察される病態発生の分子基盤が明かとなり独創的な研究となる事が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は「酸化ストレスにより誘導される脂溶性情報伝達物質の過酸化物が、極性制御因子Par3, aPKC-Par6からなる三者複合体(aPKC-Par複合体)の機能を変化させ炎症性病態を誘導するか明らかとする」ことである。本年度は、酸化ストレスによるaPKC-Par複合体の形成阻害の分子機構に着目し解析を行った。本年度は、イノシトールリン脂質シグナル伝達(PI3キナーゼシグナル)を介したaPKCの活性化が生じている可能性に着目し、酸化ストレスによる肝傷害モデルラットを使いaPKCの活性変化を詳細について生化学敵手法を用いて精査した。その結果、酸化ストレス刺激した肝組織では、aPKCの比活性が約2倍上昇している事を明かとなった。一方、過酸化PIPsのaPKC-Par複合体に与える作用については、aPKC-Par複合体の構成分子であるaPKC-Par3、Par6とPIPsが結合するか検討し、Par3、Par6と結合することを突き止めた(平成23年度発表論文参照)。これらの事から、酸化ストレスによるaPKCの過剰活性化によってaPKC-Par複合体形成が阻害される事が判明した。さらに、PIPsとPar3、Par6が結合することから過酸化PIPsがaPKC-Par複合体に何らかの作用を与える可能性を突き止め、本研究の着眼点、解析の方向性に問題がない事から、本研究が滞りなく進んでいると考えられる。また、これまで検討していなかった電子顕微鏡を使った解析結果よって、新たに慢性的な炎症を伴う原発性胆汁性肝硬変で確認されている形態異常が、本研究解析モデル動物においても同様の変化が生じている事が明かとなった。この結果から、ヒト病態発生に酸化ストレスによるaPKC-Par複合体の機能変化が関与する可能性が強く示唆された。以上のことから本研究はおおむね順調に進展していると判断するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
成24年度以降は、酸化ストレスが関与する原発性胆汁性肝硬変のモデル動物となる胆汁鬱滞モデル動物を作成し免疫組織化学的手法と生化学的手法を用いて、aPKC-Par複合体の局在、複合体形成、aPKC活性の変化の有無を検討する。また、別のヒト病態における酸化ストレスによる細胞極性制御異常の関わりについて検討するため、酸化ストレスが関与する炎症性腸疾患モデル動物を用いて解析を行う予定である。その準備実験として、腸管由来の培養細胞に酸化ストレス刺激を処理し細胞極性の異常が誘導されるか検討する。また、生化学的手法を用いてaPKC-Par複合体形成およびaPKCキナーゼ活性に与える作用について検討する。さらには、ヒト炎症性腸疾患および原発性胆汁性肝硬変の患者病理標本を用いた解析に向けての現所属大学の倫理委員会の承認および研究協力者を募る等の準備を平行して進める。そして、酸化ストレスによる細胞極性制御の異常がヒト病態の発生に関わるかヒト臨床標本を用いて検討する予定である。これら解析を通じ、細胞極性の変化が観察される病態発生の分子基盤が明かとなれば独創的な研究となると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画としては、酸化ストレス傷害モデル動物の作成に当てる。以下にあげる2つの動物モデルを作成する。(1)胆汁鬱滞モデルマウスまたはラットの作成、(2)炎症性腸疾患モデルマウスまたはラットの作成、を行う。また、これらモデル動物を作成する前に、それら組織の培養細胞株を購入し酸化ストレス刺激を与え細胞極性に与える作用を免疫組織化学的手法および生化学的手法を使い検討する。そのため、aPKC-Par複合体および細胞極性の指標となる細胞間接着関連分子(タイトジャンクション、アドヘレンスジャンクション)の抗体購入を予定している。また、aPKCの活性制御に働くPI3キナーゼシグナルの活性評価を行うため、PI3キナーゼ、Akt、などのリン酸化抗体の購入を予定している。それら解析に伴う試薬および消耗品について購入を予定している。さらに、日本酸化ストレス学会、日本組織細胞化学会、日本分子生物学会、への参加あるいは研究成果の発表を予定しており、それにかかる旅費と参加費を計上する。
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