研究課題
未だに感染症は人類にとって脅威でありながら、病原体の感染メカニズムや感染症の重症化要因についてはほとんどわかっていない。病原体と相互作用を示す分子の遺伝子には自然選択の影響を受けて欠損型などの機能的な差異が存在することが多い。本研究ではこの点に着目して、遺伝子多型として機能的な差異が存在する分子の組換えタンパク質(Ig 融合タンパク質)を作製し、様々なウィルス感染細胞および細菌・原虫との結合性を調べ、宿主分子と相互作用する病原体分子の同定を試みた。 ヘルペスウィルスやマラリア原虫などに加えて様々な細菌・ウィルス感染細胞に関して、Ig 融合タンパクの結合性をフローサイトメトリーにより網羅的に解析したところ、特定の活性化型レセプターが細菌感染細胞に結合することが見出された。さらに、免疫沈降法および質量分析を行ったところ、細菌感染細胞上に発現するリガンドを同定した。また、細胞レベルで活性化型レセプターがリガンドを認識できるかどうかを調べるために、活性化型レセプターが発現するNFAT-GFPレポーター細胞を作製して、プレートに固相化したリガンドおよび細菌と共培養すると、レポーター細胞が活性化され GFP を発現することが明らかになった。一方で、活性化型レセプターのリガンドへの結合およびレポーター細胞によるリガンドの認識は細菌非感染では認められなかった。これらの結果は同定した活性化型レセプターがリガンドを介して細菌と相互作用する事を示唆し、これまでに明らかにされていなかった新たな生体防御機構の存在が考えられる。
3: やや遅れている
平成23年度は様々な組換えタンパク質(Ig 融合タンパク質)を作製し、様々なウィルス感染細胞および細菌・原虫との結合性を調べ、リガンドを同定することを計画していたが、Ig 融合タンパク質の精製後にタンパク質が分解してしまうという現象がみられたため、保存方法等の検討に時間がかかった。そのため、様々な種類のIg融合タンパク質を作製することができなかった。また、Ig融合タンパク質を作製することができた特定の活性化型レセプターが細菌感染細胞に結合することを見出し、リガンドの同定まで行うことはできたが、その分子メカニズムまで明らかにすることができなかった。
平成23年度に同定した活性化型レセプターが細菌感染によってどのようにリガンドを認識するようになるのかの分子メカニズムに関して、ウェスタンブロッティングや遺伝子変異導入法により明らかにする。また、本研究で同定した活性化型レセプターは遺伝子型による機能的な差異が存在している。遺伝子型によってリガンド認識が異なるのかをNFAT-GFPレポーター細胞を用いて明らかにし、当初の研究計画通りに推進する。
研究を進めていく過程でタンパク質の分解などの予定外の問題が生じ、その検討に時間がかかったため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。本研究では、下記に列記するような各種試薬、培養器具等が必要である。組換えタンパク質の作製に必要な試薬、器具(900千円)、病原体分子を同定するための質量分析等(300千円)、機能解析するための細胞培養液、器具(600千円)、DNA実験に必要な試薬(300千円)、その他、情報収集、研究打ち合わせ、成果発表のための旅費等(200千円)、その他通信費、研究成果発表費用(50 千円)
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
PLoS Pathog.
巻: vol.8 ページ: e1002565
10.1371/journal.ppat.1002565
http://immchem.biken.osaka-u.ac.jp/publication.html