研究課題
溶血性貧血疾患の治療法としては現在のところ同種造血細胞移植療法が選択されているものの、同種ドナー不足が懸念されている。我々はこれらの疾患のモデルマウスより樹立した自己細胞由来人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)、骨髄細胞由来造血幹細胞分画を用いて、(1)レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、トランスポゾンベクターによる原因遺伝子の修復 (2)修復後のiPS細胞を造血幹/前駆細胞に分化誘導、造血幹細胞移植を行うことで、これらの疾患の遺伝子治療法モデルの開発を試みる。疾患モデルマウスより皮膚線維芽細胞を採取後、レトロウイルスにより山中4因子を導入し、iPS細胞の樹立を試みた。得られたES細胞様のコロニーについて、免疫染色、RT-PCR法による各種マーカー検出、免疫不全マウスを用いたテラトーマ形成能の確認を行いiPS細胞の特性解析を行った。さらに、非ウイルスベクターで構築が簡便なトランスポゾンベクターを用い、正常pyrivate kinase LR遺伝子を発現するベクターを構築した。トランスポゾンベクターは、哺乳類染色体への遺伝子組込みが可能であり、特定の位置に組込まれるものは報告されていないものの、転写活性化している遺伝子やヘテロクロマチン等、染色体の状態による影響は受けるため、組込まれる位置は完全にランダムというわけではない。治療を目的とした場合、挿入変異の危険性を回避することが必要であり、現在のところ臨床応用を目指した安全性の改善に向けた研究も進行してるため、マウスを用いた本研究の知見をヒトに応用できることが期待できる。溶血性貧血のモデルマウスにおいて自己細胞由来のiPS細胞を用いた病態解明、遺伝子治療法モデルが確立されればこれらの疾患治療を考える上で重要な知見となる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の研究計画である、疾患モデルマウス皮膚線維芽細胞由来のiPS細胞の樹立と特性解析およびベクター構築はおおむね終了した。得られたES細胞様コロニーの血球細胞への分化能の検討は、OP9細胞を用いた分化誘導条件の確定を試みたが、条件検討のみに終わりやや遅れている。しかしながらベクター構築が当初の計画より早めに終了したことから、平成24年度実施予定であったiPS細胞へのベクターの導入、導入条件の検討準備に着手することができた。
平成24年度は、gene targetingにより変異遺伝子を修復したiPS細胞を用いて、造血幹細胞を誘導し、溶血性貧血遺伝子治療の治療モデルを確立する。また疾患モデルマウス骨髄細胞より造血幹細胞分画を分離し各種ベクターにて遺伝子導入を行い、血球分化能を検討する。平成23年度実施予定であった、ES細胞様コロニーの血球細胞への分化能の検討が当該年度には不十分であったため、得られたiPS細胞の血球細胞への分化能の検討をまず行い、iPS細胞より造血幹/前駆細胞を得る最適な条件を検討する。遺伝子治療用ベクターの構築、導入条件検討にはすでに着手しており、今後これらの条件を確定するとともに疾患モデルマウス骨髄細胞より造血幹細胞分画を分離し各種ベクターにて遺伝子導入を行い、治療モデルの確立を目指す。
次年度は得られたiPS細胞の血球細胞への分化能の検討をまず行うため、分化誘導に必要なサイトカイン等を購入予定である。平成23年度中、iPS細胞の血球細胞への分化能の検討はOP9細胞を用いた分化誘導条件の確定を試みたが、条件検討のみに終わったため、次年度に使用する予定の研究費が生じた。また、疾患モデルマウス骨髄細胞より造血幹細胞分画を分離し各種ベクターにて遺伝子導入を行い、血球分化能を検討する予定であるため、実験動物費を計上している。これらの費用には餌等管理費を含む。試薬類には、培養培地、フローサイトメトリー用抗体、ベクター構築用キット類等が含まれ、in vitroでの研究に使用予定である。
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Am J Resp Cell Mol Biol
巻: 45 ページ: 795-803
巻: 45 ページ: 470-479