研究課題/領域番号 |
23790396
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
華表 友暁 浜松医科大学, 医学部, 助教 (40416665)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 腫瘍 / ゲノム不安定性 / HERV / 肺癌 / 多型 / PCR |
研究概要 |
腫瘍性疾患のゲノム不安定性を検出する方法として提案したinverse PCR法を肺腫瘍組織(8症例)から抽出したゲノムDNAを用いて実施した。具体的には、計画通りHERV-Kを標的としたプライマーを設計してinverse PCRを行うことでHERV-Kに隣接するゲノム領域を症例毎に増幅させた。増幅断片を網羅的にクローニングして8症例全体で196クローンについてシークエンスを行った。解読された塩基配列は予測通りinverse PCRで用いた制限酵素部位を含むHERV-LTR領域とヒトゲノム領域から構成される配列であり、データベースと照合した結果、データベース上には存在しない3種類の塩基配列が得られた。この内、2種類の配列についてはその隣接するゲノム領域が1p13.2内と19q12内に位置する特定の部位であることが判明した。即ち新規のHERV挿入部位が2つ同定された。そこでこれら新規HERV挿入部位がクローニングされた症例について、同一個体内の正常組織から抽出されたゲノムDNAを用いて正常部位にも挿入があるのかどうかを確かめた。その結果、両HERV挿入部位とも正常組織にも存在することが判明した。このことから、これら新規に同定された2つのHERV挿入部位は挿入多型であることが考えられた。この時点ではgermline mutationの可能性も排除できなかったが、10症例程度をジェノタイピングした結果ではgermline mutationではなく挿入多型であると判断される結果を得ている。HERV挿入多型についてはゲノム解読技術が進んだ現在でもまだ9箇所しか報告されておらず、今回の発見で11箇所になる。今後同様の手法を用いることで更なるHERV挿入部位を同定することが可能であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画にあるようにinverse PCR法によるHERV-LTRとその隣接ゲノム領域を増幅させることに成功した。その過程においてより特異的にHERV-LTRをターゲットとした領域が増幅されるよう、プライマーをタンデムに設計しPCR反応を2回繰り返する方法(nested PCR法)を採用した。その結果、このnested inverse PCR法によってHERV-LTR特異的な増幅が得られた。このことから本研究計画の起点となる実験系は確立できたといえる。次に増幅されたPCR断片の解読であるが、当初考えていた腫瘍特異性の判別を目的としたアクリルアミドゲルによる分離では目視による判別に耐えうるほどの十分な分離は得られず、更にその後のゲルからの切り出しも困難であった。このことから、ゲルによる分離ではなくPCR断片を網羅的にクローニングしシークエンスする手法に切り替えた。このことにより、作業工程が増える結果となったが確実に配列を解読することが可能となった。即ち、当初の研究計画にあった"腫瘍特異性の判別→挿入部位の同定"の順序が"挿入部位の同定→腫瘍特異性の判別"になっただけで、腫瘍におけるゲノム不安定性の検出実験系は確立できたといえる。一方で、今回の実験結果では新規のHERV挿入多型は同定できたが、当初の目的であった水平伝播による腫瘍特異的なHERV挿入(somatic HERV-integration)は同定できなかった。以上のことから、水平伝播による挿入ではないが新規のHERV挿入多型を同定し、今後も検証可能な実験系を確立したことを踏まえると、概ね研究計画は順調に伸展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、1年目で確立したnested inverse PCR法を用いて当初の目的通り水平伝播によるHERV挿入部位の同定を目指していきたい。症例数を増やすと同時に、増えた作業工程(クローニング、シークエンス)を短縮するため、マイクロチップや次世代シークエンサーの効率的な使用を検討している。特にマイクロチップについては研究代表者所属の研究室においてcopy number variants (CNVs)の同定・解析の実績が既にあるため応用へのハードルは比較的低い。一方1年目で同定することができた新規HERV挿入多型については、まず挿入されたHERVの全塩基配列を解読したい。10症例程のジェノタイピングを行った時点では、全長のHERVの挿入は無く単体のLTR領域の挿入からなるbi-allelic (挿入無とsoloLTR挿入)であると推定できる。このLTR領域の全塩基配列を解読することで、本来LTRが持つとされているpromoter活性、エンハンサー活性がこの新規に同定されたLTRにも備わっているかどうかを推測することが可能となる。これらの転写調節活性能は挿入箇所周辺の遺伝子への転写調節に影響を与える可能性があるため検証する価値が大いにあると考える。また、多数の正常組織由来ゲノムDNAを用いたジェノタイピングを行い、癌患者と健常者を対象としたケースコントロール研究を行っていく。このことより、腫瘍性疾患の感受性を多型レベルで検討が可能となり、1年目で得られた成果を発展させることができる。ケースの対象となる疾患は肺がん患者を予定している。また、性別、年齢域、地域性を考慮したコントロールとの比較を行うことで、検出力の高さを保つことを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
水平伝播によるHERV挿入部位の同定に関しては、マイクロチップおよび次世代シークエンサーによる運用を想定している。現代人の組織内でのHERV水平伝播は今までに報告はなく、その検出には網羅的な解析が必要不可欠であると考える。そのため、クローニングとキャピラリーシークエンサーによる塩基配列解読では対応が難しく、次年に請求する研究費の使用計画にこれら最先端技術の使用予定を入れる。HERV挿入多型については、挿入配列の全長解読に加え、ケースコントロール研究において多数のゲノムDNAを抽出するために費用を要する。検体数については肺がん患者由来組織 200 <、そのコントロールとなる健常者由来組織 500 < を確保しているが、その内肺がん患者由来 組織からのDNA抽出は済んでいないものが多数ある。また、ジェノタイピングに要するPCR試薬や判定に用いるゲルなどの消耗品も同じだけ多量に消耗するため、そのための研究費を使用計画に入れる。更に、1年目で得られた成果である新規のHERV挿入多型と、2年目で得られる予定の研究成果について国内外問わず積極的に発表を行う予定であり、同時に論文による投稿も予定している。そのための費用を使用計画に入れる。
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