研究概要 |
甲状腺悪性腫瘍(乳頭癌、濾胞癌、未分化癌)について、手術検体(ホルマリン固定パラフィン包埋切片)に対しSNX2免疫染色を施行した。いずれの腫瘍もSNX2は瀰漫性に陽性であり、組織型による差はみられなかった。剖検症例で得られた各組織からmRNAを抽出し、RT-PCR法によりSNX2 mRNAの発現を検討したところ、全ての臓器での発現がみられ、免疫染色でも同様の結果を確認した。甲状腺組織では、甲状腺ホルモン産生が活発な状態である立方状~高円柱状濾胞上皮(active follicle)にSNX2陽性、不活発な状態である扁平濾胞上皮(inactive follicle)の多くでSNX2陰性であることを見出した。甲状腺機能亢進状態であるバセドウ病、機能性結節症例を用いて検討したところ、SNX2がびまん性に陽性であることを確認した。active follicleに陽性となることが報告されているsortilin蛋白もSNX2と同様に立方状~高円柱状濾胞上皮陽性、扁平濾胞上皮の多くで陰性であり、同様の分布を示した。ラット正常甲状腺上皮細胞(FRTL-5)を用いた検討では、TSH刺激により細胞サイズが大きくなるとともに、sortilin、SNX2いずれも発現が増加することをWestern blot法により確認した。以上より、SNX2は活性化甲状腺濾胞上皮細胞を示唆する新たなマーカーと考えられ、悪性腫瘍においても小胞輸送の活性化を反映していると示唆された。 甲状腺上皮以外では間質の炎症細胞に陽性像がみられた。遺伝子発現データベースでは(LSBM, http://www.lsbm.org/database/index.html)腎臓でもSNX2 mRNAが高発現していたことから腎生検検体を用いて染色を行い、正常壁側上皮細胞で陽性像を認めたが、様々な糸球体疾患では陽性所見に違いはみられなかった。
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