研究課題/領域番号 |
23790401
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大上 直秀 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (60346484)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | がん / 病理学 / 胃癌 |
研究概要 |
本研究では、胃癌における胃型・腸型形質の発現が、癌幹細胞の非対称性分裂によってどのように変化するのかを明らかにし、胃型・腸型胃癌の病態、組織ヘテロジェナイティーを解明することを目的とする。 本年度は、胃癌細胞株TMK-1、MKN-45を材料にFACSを用いてside-population(SP)細胞を分離した。SP細胞を培養し再度FACSにて解析を行ったところ、SP細胞および非SP細胞いずれもが認められた。一方、非SP細胞を培養しFACSにて解析を行ったところ、文献的報告によればSP細胞は認められないはずであったが、SP細胞、非SP細胞いずれもが認められた。従って、胃癌細胞株においてはSP細胞以外にも癌幹細胞成分が存在するものと考えられ、SP細胞を分離しても癌幹細胞の同定には至らないと考えられた。これらのSP細胞、非SP細胞の遺伝子発現をGeneChipにて解析したところ、ヒストン等のクロマチンリモデリングに関わる遺伝子群の発現が変化しており、SP細胞ではクロマチンレベルで遺伝子発現が制御されていることが明らかとなった。 一方、幹細胞はspheroidを形成することが報告されている。FACSによる方法では癌幹細胞分離できなかったため、MKN-45を材料にspheroidを形成させ癌幹細胞の分離を試みている。現時点でspheroidの形成には成功しているが、各種解析が可能な大きさにまで増殖しておらず培養を継続している。今後はspheroidを形成した細胞を材料にGeneChip解析を行い遺伝子発現について検討するとともに、胃型・腸型形質発現を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、胃癌における胃型・腸型形質の発現が、癌幹細胞の非対称性分裂によってどのように変化するのかを明らかにし、胃型・腸型胃癌の病態、組織ヘテロジェナイティーを解明することを目的とする。本年度は胃癌細胞株をBrdUで標識し、anaphaseを顕微鏡下で探し非対称性分裂の解析を行う予定であった。 本年度はまずFACS解析を行い、胃癌細胞株をSP細胞と非SP細胞に分離し、癌幹細胞の単離を試みた。文献的にはFACSにより幹細胞が分離できると報告されているものの、現時点でFACSによる癌幹細胞の同定には至っておらず、非対称性分裂の解析はできていないので、やや遅れていると判断される。一方、FACSにより分離したSP細胞と非SP細胞の、GeneChipによる遺伝子発現プロファイリングは終了しており、ヒストン等のクロマチンリモデリングに関わる遺伝子群の発現の変化を明らかにしている。これらが非対称性分裂時におこるゲノムDNAの非対称性分配に関わっているものと予想される。非対称性分裂時におこるゲノムDNAの非対称性分配のメカニズムの詳細は不明な点が多く、ゲノムDNAの非対称性分配のメカニズム解明には大きく前進したものと考える。 一方、spheroidの形成には成功しており、これを材料にBrdUを取り込ませれば、非対称性分裂の解析が可能となる。癌幹細胞は増殖速度が遅いことが知られており培養には時間がかかるとはいえ、非対称性分裂の解析には至っておらず、やや遅れている。 総合的に、やや遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析で、FACSにより分離したSP細胞と非SP細胞のではヒストン等のクロマチンリモデリングに関わる遺伝子群の発現が変化していることが明らかとなった。これらが非対称性分裂時におこるゲノムDNAの非対称性分配に関わっているものと予想され、胃癌組織におけるこれらの分子の発現を免疫染色で検討する。さらに、SP細胞、非SP細胞にBrdUを取り込ませ、顕微鏡下で観察し、非対称性分裂の頻度・性質を解析する。さらに胃型・腸型形質の分化マーカーであるMUC5AC、MUC6、MUC2、CD10、olfactomedin 4等の免疫染色を施行し、非対称性分裂時にどのような発現をしているのかを解析する。 本年度は胃癌細胞株を材料にspheroidの形成に成功した。これを材料にGeneChipで遺伝子発現解析を行い、spheroidにおいて特徴的に発現している遺伝子を同定する。さらにspheroidにBrdUを取り込ませ、顕微鏡下で非対称性分裂の頻度・性質を解析する。さらに胃型・腸型形質の分化マーカー(MUC5AC、MUC6、MUC2、CD10、olfactomedin 4)の免疫染色を施行し、非対称性分裂時にどのような発現をしているのかを解析する。 近年、胃癌の癌幹細胞ではROSが低いという報告がなされた。今後はROSにも着目し、胃癌の癌幹細胞の分離を試みる。具体的にはDCFDA処理を行い、ROSが低い細胞を癌幹細胞と想定し、BrdUを取り込ませ、顕微鏡下で非対称性分裂の頻度・性質を解析する。 これらの解析から得られた知見を基盤に胃癌組織の免疫染色を行い、胃癌における胃型・腸型形質の発現が、癌幹細胞の非対称性分裂によってどのように変化するのかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本的には「今後の研究の推進方策」に記載した通りに進める。すなわち、SP細胞、非SP細胞に取り込ませるBrdU、胃型・腸型形質の分化マーカーであるMUC5AC、MUC6、MUC2、CD10の免疫染色用の一次抗体、遺伝子発現解析用のRNA抽出キット、GeneChip解析用のラベリング試薬、ROSの解析用のDCFDAを研究費で購入し使用する。 その他、一般実験試薬としてピペットチップやチューブ等のプラスチック製品の他、各種buffer作成のための試薬を購入する。細胞培養試薬として細胞培養液、96ウェルプレート、培養用のディッシュ、血清等を購入する。spheroid形成にはTGF-b等のさまざまな増殖因子を培養液に添加して培養する必要があり、増殖因子も購入する。GeneChipの解析結果から免疫染色を行うことが必要と判断された分子については抗体を購入し、免疫染色を行う。 さらに申請者の研究室が開発した胃型・腸型形質の分化マーカーの一つであるolfactomedin 4に対する抗体を精製する試薬や、GeneChip解析から明らかになったクロマチンリモデリングに関わる遺伝子群の発現を解析するための一次抗体を購入する。 本研究では「今後の研究の推進方策」に記載した通り、各種免疫染色を行うが、免疫染色用の二次抗体(酵素抗体法、蛍光二重免疫染色用を含む)、発色試薬、核染色試薬(ヘマトキシリン、DAPIを含む)を購入し使用する。
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