研究概要 |
本研究では、トランスクリプトーム解析等を用いて、特に消化管腫瘍の転移に関連する遺伝子に焦点を当てて検討を行った。平成23年度は、転移形成において重要な役割を果たしていると考えられる3種類の癌幹細胞マーカー(ALDH1, CD44, CD133)の胃癌原発巣における発現と臨床病理学的意義についての解析を行い、ALDH1とCD44は原発巣よりも転移巣で陽性率が高く、特にALDH1はdiffuse type胃癌において有意に転移巣での発現が亢進することが明らかとなり、転移機構におけるこれらのマーカーの重要性が明らかとなった。平成24年度はトランスクリプトーム解析によって得られた候補分子であるHOXA10の胃癌における臨床病理学的解析を行った。HOXA10は749例の胃癌のうち221例(30%)に発現上昇を認め、特に深達度の浅い症例や分化度の高い組織型に多く発現していることが明らかとなった。またHOXA10は腸上皮化生粘膜や腸型粘液形質を示す胃癌で高い頻度で陽性を示し、腸分化を制御する分子であるCDX2の発現と有意な正の相関関係を示した。さらにHOXA10陽性胃癌は陰性胃癌と比較して有意に予後良好であったが、この理由としてHOXA10が癌細胞の細胞増殖活性や細胞運動能を抑制していることが明らかとなった。 以上、2年間の研究期間を通じて消化管の転移に関連する分子の臨床病理学的意義やトランスクリプトーム解析によって得られた腸型粘液形質を示す胃癌の新規マーカーを同定することが出来た。
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