心筋梗塞や脳梗塞に代表されるアテローム血栓症は、動脈硬化性プラークが破綻し、血栓が血管内腔を塞ぐことで発症する。しかしながら、アテローム血栓症における血栓サイズの制御機構は明らかではない。本研究では動脈硬化巣(プラーク)の低酸素状態と血栓能の関連を明らかにするために、人体病理標本とアテローム血栓症の動物モデルを用いて、プラーク内の低酸素性応答による血栓能の制御機構を明らかにすることを目的とした。内因性の低酸素反応因子であるhypoxia inducible factor (HIF)-1αの発現をヒト冠動脈のプラークで検討した。不安定狭心症(血栓症)のプラークでは安定狭心症(非血栓症)に比してHIF-1αの核内移行が増加しており、血栓症の冠動脈プラークで低酸素応答が生じていることが明らかとなった。また、プラークのマクロファージ面積がHIF-1α陽性核数と相関を示した。次に、プラークの低酸素状態と血栓の関連を家兎動脈硬化性血栓モデルと外因性低酸素マーカーであるピモニダゾールを用いて検討した。家兎下肢動脈のプラークには、ピモニダゾール陽性の低酸素領域が存在し、その面積は血液凝固の開始因子である組織因子と有意に相関した。血栓モデルにおいて、プラークに生じる血栓は大きく血小板とフィブリンからなっており、低酸素領域の面積はフィブリン面積と強く相関した。低酸素下における血栓性因子の発現調節機構を培養実験にて検討し、低酸素下の組織因子発現やプラスミノーゲンアクチベーターインヒビターの発現にHIF-1α等の転写因子が関与していた。以上のことより、低酸素状況がプラークの血栓能やアテローム血栓の形成に影響を与えていることが示唆された。
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