がんの悪性度を規定する分子基盤を明らかにすることは、がんの進展機構を解明する上で、また新規の分子標的療法の開発につながる重要な研究案件である。本研究の目的は、その分子基盤の一端を明らかにすることである。申請者らはこれまでにKRAS変異肺腺がんの予後が他の肺腺がんと比べて不良であることを示してきた。さらにKRAS変異肺腺がんの中でも細胞増殖活性が高い群と低い群があり、KRAS変異/高増殖活性を示す群が、最も予後不良であることを示してきた。従って、KRAS変異/高増殖活性を示す肺腺がんの悪性度を規定する因子を同定することは、がんの悪性度を規定する分子基盤を解明する上で有用な事であると考えられる。申請者らは既に、遺伝子発現マイクロアレイを用いたKRAS下流分子の網羅的解析から、肺がんの進展にかかわる候補癌遺伝子および癌抑制遺伝子を複数同定してきた。申請課題では、複数のKRAS下流分子の発現プロファイルをみることで、肺腺がんの悪性度を規定する分子基盤の一端を明らかにすることを目標とした。当該研究では、マイクロアレイ解析によって抽出された分子群の発現レベルを、先ずKRAS導入細胞で検証し、マイクロアレイ解析の結果との整合性を求めた。申請の表に記した分子群の殆ど全ての発現変動が確認され、マイクロアレイの結果の正当性が支持された。特に、ケモカイン3分子(CXCL7(PPBP)、CCL3、CXCL2)、およびS100分子群の発現解析を原発性肺癌病変で行い、これらの発現レベルが、KRAS変異肺癌で高度に上昇している病変があることを確認した。また、これら候補分子群の蛋白質発現解析では、特にS100蛋白質群が、KRAS変異肺癌で高発現している傾向があることを見出した。以上の研究成果は、国際誌に投稿予定である。
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