研究課題/領域番号 |
23790420
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
木村 徳宏 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40445200)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 病理学 / 細胞・組織 / 関節 / 軟骨 / 細胞運動 |
研究概要 |
本年度はまず、ヒト変形性関節症(OA)関節軟骨組織から単離・培養した培養OA軟骨細胞を用いて、2次元遊走モデルであるmonolayer wound assayにより、OA軟骨細胞の遊走能を評価した。無血清培地中ではOA軟骨細胞の遊走はわずかであったが、ウシ胎仔血清(FBS)や血小板由来成長因子(PDGF)を加えると遊走は亢進した。OAの病態に重要な役割を演じると考えられている各種のサイトカイン・増殖因子(VEGF、IL-1、TNF-α、TGF-β)を加えて実験を行うと、VEGFに中等度の遊走促進作用が認められた。OA軟骨細胞にVEGFを作用させた時のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリー分子の発現の変化をリアルタイムRT-PCR法で検討すると、MMP-1、MMP-3、MT1-MMPの発現が上昇することがわかった。またVEGFの添加によるOA軟骨細胞の細胞内シグナル伝達分子のリン酸化の変化を調べると、ERKがリン酸化されていた。次いで、MMP阻害薬であるBB94や、ERKリン酸化の阻害薬であるU0126を加えた上でVEGFを作用させると、OA軟骨細胞の遊走は有意に抑制された。これらのことから、VEGFによるOA軟骨細胞の遊走促進には、少なくともERKによるシグナル伝達系とMMPファミリー分子の発現誘導が関与している可能性が考えられた。一方、OA関節軟骨組織中の軟骨細胞の遊走の経時的観察、および軟骨組織片からの細胞の遊出後の組織所見の評価は難しく、観察条件を検討している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OA関節軟骨組織中での軟骨細胞の遊走の観察と、軟骨組織片からの軟骨細胞の遊出後の組織所見の検討に関しては進展がやや遅れているが、遊走時のプロテアーゼ発現や細胞内シグナルの検討が順調に進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
実験上の困難に直面しているOA関節軟骨組織中での軟骨細胞の遊走の観察と、軟骨組織片からの軟骨細胞の遊出後の組織所見の検討については、観察条件の検討・工夫を今後行い、推進する予定である。液性因子、細胞外マトリックス成分によるOA軟骨細胞の遊走調節についてさらに知見を集積し、興味深い現象をみつけてゆく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に購入予定であった、組織中での軟骨細胞の遊走の観察と軟骨組織片からの軟骨細胞の遊出後の組織所見の検討に用いる試薬の一部は、観察条件の検討・工夫を行ってから使用することにしたため、次年度に購入することとした。 また、効率的な物品調達を行った結果生じた未使用額については、次年度の消耗品購入に充てる予定である。
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