本年度には、昨年度に引き続き、変形性関節症(OA)の病態に重要な役割を演じると考えられる各種のサイトカイン・増殖因子が培養ヒトOA軟骨細胞の遊走にどのような影響を与えるか、monolayer wound assayにより検討した。血小板由来成長因子(PDGF)は再現性よくOA軟骨細胞の遊走を促進する一方、IL-1βとTGF-βには遊走を抑制する効果が観察された。TNF-α、IGF-I、ケモカイン(RANTES、MCP-1)では遊走促進・抑制作用ははっきりしなかった。OA軟骨細胞においてIL-1βシグナルの下流に位置すると考えられているプロスタグランジンE2(PGE2)についても遊走への影響を調べたところ、1μMの濃度で遊走が抑制された。遊走抑制に関与するPGE2受容体のサブタイプを検討するため、EP1/2拮抗薬AH6809、EP1拮抗薬SC19220、EP4拮抗薬AH23848の存在下に実験を行ったところ、いずれの拮抗薬もPGE2の遊走抑制作用をブロックしなかった。この結果から、PGE2の軟骨細胞遊走抑制作用はEP3受容体を介している可能性が考えられた。また、軟骨分化と遊走能の関係を調べるため、マウス細胞株ATDC5をインスリンにより軟骨分化させ、分化前後の細胞で遊走能の比較を行ったところ、分化前に比べて、分化後の細胞の遊走能は低下していた。これらのデータから、OA軟骨細胞の遊走を調節する因子の少なくとも一部が明らかになり、遊走能と細胞の軟骨分化の状態との間に密接な関係があることが示唆された。
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