研究課題/領域番号 |
23790424
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
稲熊 真悟 愛知医科大学, 医学部, 講師 (80410786)
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キーワード | 膵臓癌 / ZIC2 / 転写因子 / 細胞増殖 |
研究概要 |
Zinc-finger型転写因子ZIC2は、Shh-GLI1シグナル経路やSIX3遺伝子とともに、中枢神経の発生に不可欠な遺伝子であり、全前脳胞症(holoprosencephaly)の原因遺伝子として知られている。 前年度までに、PANC-1, KP-4をはじめとする膵臓癌細胞株計11株において、いずれの細胞株もZIC2のみを高発現していること、またテトラサイクリンシステムを用いたZIC2の強制発現や、ZIC2特異的siRNAの遺伝子導入によるZIC2発現抑制実験により、膵臓癌細胞株がZIC2依存性の増殖を示すことを明らかにした。 本年度は、cDNAマイクロアレイ解析の結果同定された、353のZIC2標的遺伝子候補群より、膜結合型チロシンキナーゼの一種であるFGFR3と、アポトーシス関連遺伝子ANXA8L2を選択し、当該遺伝子のZIC2による発現誘導機構の解明と、膵臓癌細胞増殖機構への関与を検討した。 ZIC2-エストロゲンレセプターキメラ遺伝子を膵臓癌細胞株KP-4に一過性導入し、エストロゲン刺激を加えたところ、シクロヘキシミド存在下においても、FGFR3、ANXA8L2の発現が誘導されたことから、これらはZIC2の直接的な転写標的遺伝子であると考えられた。また、ZIC2強制発現とFGFR3特異的siRNAを用いたknock-down実験を組み合わせ、リン酸化ERKを定量した。その結果、ZIC2はFGFR3依存性にリン酸化ERKを増加させ、RAS-MAPKを介して膵臓癌細胞の増殖を促進させている可能性を明らかにした。他方で、ZIC2によるANXA8L2誘導とANXA8L2特異的siRNAによるknock-downを組み合わせて行うことにより、ZIC2はANXA8L2を介して膵臓癌細胞のアポトーシスを抑制し、その増殖に寄与している可能性も明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。その理由として、以下の点が挙げられる。 (1)膵臓癌細胞株の選択や、遺伝子発現ベクターの構築、転写因子-エストロゲンレセプターキメラ遺伝子を用いた直接的転写遺伝子遺伝子の同定法、siRNAオリゴによる遺伝子knock-down実験など、現在までに蓄積された経験、実験法によって、予定していたin vitroの実験計画が順調に遂行されたこと。 (2)研究に必要な1次抗体の大部分はすでに用意されており、新規に購入した1次抗体に関しても、特異性が比較的高く、タンパク質の発現解析も遅滞なく行うことができたこと。 次年度も、効率的な研究計画の遂行を心掛けたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ZIC2直接的転写標的遺伝子と考えられたFGFR3、ANXA8L2遺伝子に関して、そのプロモーター/エンハンサー領域をPCRにて単離、pGL4レポーターベクターに組み込み、レポーターベクターを作成する。作成されたレポーターベクターを用いて、レポーターアッセイを行い、プロモーター/エンハンサー領域内におけるZIC2の結合配列を同定する。また、ChIP assayを用いて、ZIC2のプロモーター/エンハンサー領域への結合を証明する。 ZIC2やFGFR3、ANXA8L2の強制発現、siRNAによる発現抑制を行い、BrdU取り込みアッセイやフローサイトメトリー解析を用いて、ZIC2-FGFR3/ANXA8L2経路が細胞周期、アポトーシスに及ぼす影響とそのメカニズムを解析する。 FGFR3、ANXA8L2に関して、膵臓癌組織を用いた免疫組織解析を行い、ZIC2の発現強度やKi-67陽性率との関連を統計学的に解析する。 以上の実験データをもとに、論文を執筆・投稿し、適切な学術誌に発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述した研究計画にもとづき、ChIP assayに必要な抗体・試薬、レポーターベクターの作成やレポーターアッセイ用の試薬、knock-down実験に必要な合成オリゴ、細胞培養に用いる培養液、血清等、プラスチック製品など、分子生物学的実験に関連した消耗品費を購入する予定である。 免疫組織学的解析用の一次抗体、二次抗体、発色試薬も購入を予定している。 また、成果の一部を発表する為に学会出張費を支出する可能性があるが、人件費や物品購入費を支出する予定はない。
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