ヒトT細胞白血病ウイルス‐1(HTLV-1)は、成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)などの疾患を引き起こす。ATLはその非常に強い皮膚などへの臓器浸潤性や化学療法抵抗性によって未だ有効な治療法が確立されておらず、現在、HTLV-1濃感染国である我が国において、極めて予後の悪い白血病の一つとなっている。よって、ATLの有効な治療法を確立するためには、このような治療抵抗性を獲得するメカニズムを解明して詳細に理解することが不可欠である。 我々は、周囲微小環境を形成する正常上皮細胞にはATLL患者由来白血病/リンパ腫細胞(ATL細胞)の生存を保護する働きがあることを見出した。ATL細胞は正常上皮細胞との接着によって、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤で誘導されるアポトーシスを阻止し、さらにNKG2Dを介したNK細胞による細胞傷害を抑制した。正常上皮接着ATL細胞では、p21Cip1やCD25の発現抑制、細胞周期静止期細胞の増加を認め、正常上皮細胞上にコロニーを形成するATL細胞の一部は、CD44やビメンチンの発現亢進を認めた。このような現象は線維芽細胞に接着したATL細胞では認められなかった。以上の結果より、正常上皮細胞の宿主保護作用が結果的にATLの病態の進展を助長している可能性が示唆された。ATL細胞が正常上皮細胞との接着によって「がん幹細胞様の特性」を獲得し、結果的に「がん細胞の温存」へとつながっているという新しい概念は、ATLLのみならず、他の難治性造血器腫瘍に対する治療抵抗性の克服にも応用可能であろうと考える。
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