研究課題
膵β細胞から産生されるVEGFは、膵島に豊富に存在する毛細血管網の形態構築や機能維持に重要な役割を果たしている。一方、血管内皮細胞も様々な生理活性物質を産生し、膵β細胞の機能調節に関与している。申請者らはこれまでに自然発症糖尿病モデル動物SDTラットを解析し、VEGFの過剰シグナルが糖尿病発症の原因になっているという新たな機序を発見した。本研究では、その分子機構を明らかにすることと、これらの膵β細胞・血管内皮細胞相互作用の異常が糖尿病発症にどれだけ普遍的に寄与しているかを検討することを目的とする。これまでにSDTラットにおいてVEGFシグナルの亢進が血管内皮細胞に生じていることを明らかにしたが、今回膵β細胞からのVEGF分泌を週齢別に検討したところ、膵島異常が生じている13週齢では対照ラットに比してSDTラットで有意に増加していたが、膵島異常がみられる直前の5週齢では対照ラットと変わりなかった。そこで、膵β細胞からの別の候補因子としてIL-1βの分泌を検討したところ、5週齢よりSDTラットで著明に増加していることが今回明らかとなった。VEGFシグナルを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬によりSDTラットの糖尿病発症は抑制されることから、VEGFシグナル亢進により生じる血管機能・構築の破綻が膵β細胞に虚血を起こすことにより後天的にVEGF分泌を増やしており、それによりさらに血管内皮細胞でのVEGFシグナルを亢進するという過剰なVEGFシグナルサイクルがSDTラットで生じており、それが糖尿病発症に寄与していることが今回初めて明らかにされた。また、他の糖尿病モデル動物ではチロシンキナーゼ阻害薬による糖尿病発症抑制は認められなかったことから、血管炎症を主体とする糖尿病のサブタイプにおいてこのような過剰なVEGFシグナルが生じている可能性が示された。
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