研究課題/領域番号 |
23790433
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
狩野 光伸 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (80447383)
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キーワード | ナノDDS / ナノ粒子 / 新生血管 / 血管内皮細胞 / 血管壁細胞 |
研究概要 |
24年度は、V*(現段階で名称公表不可、以下同様)とナノ粒子漏出性に関する解析を引き続き行った。炎症環境下でV*の発現は増強しており、BxPC3ヒト膵癌皮下腫瘍モデルにおいてもV*陽性血管は多くみられる。23年度にはTGFβシグナルの抑制によりV*陽性血管が減少し、ナノ粒子分布性と相関することを見出し、さらにin vitroレベルでTGFβシグナル依存的にV*発現が制御されることを報告した。一方、V*細胞外ドメインの分解によっても説明されうるため、24年度はV*の分解について解析を行った。 in vitroモデル細胞としてヒト内皮細胞HUVECおよびHMVEC、およびマウス内皮細胞bEnd3を用いた解析を行った結果、炎症性シグナル依存的にV*を発現上昇させた後のTGFβシグナル抑制により、V*細胞外ドメインの切断が増加することが明らかになった。 さらに、切断を受けた結果細胞表面から産生される遊離型のV*細胞外ドメインにより、内皮細胞間の細胞間接着に重要であるClaudin5の発現が減少することが示唆された。FITC標識デキストランを用いた透過性解析の結果、V*細胞外ドメインにより処理された血管内皮細胞では透過性が亢進することも明らかになった。これらの知見から、TGFβ阻害による漏出性の増強はV*細胞外ドメインのmRNAレベルでの発現制御に加え、V*細胞外ドメインの分解亢進によっても説明される可能性が示唆されてきている。 並行して、新規実験系の構築も試みた。漏出性の評価に用いるトランズウェルインサート上で、内皮細胞と壁細胞の3次元培養を行うことにより両者の直接接着を実現した in vitroモデルの構築を試みた。系を構成する細胞として、新規腫瘍モデルに用いたMS1と10T1/2を用いて詳細な条件検討を行った結果、これらを用いた積層培養法による3次元培養系の確立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新規解析系を用いつつ、血管の壁細胞被服と漏出性の相関について分子基盤を明らかにする計画である。 これまでの検討で、漏出性制御を担う機構として、代表的な内皮細胞タイトジャンクション分子であるclaudin5の発現レベルが関与すると示唆される一方で、それらが単純な壁細胞被覆レベルはとは相関しないことを見出していた。したがって、内皮細胞と壁細胞との接着に関してより詳細な解析が必要であった。前年度の検討の結果、内皮―壁細胞間の接着安定化に重要であると報告されているV*が、腫瘍血管における漏出性に関連する可能性が示唆され、壁細胞の内皮細胞への接着と漏出性制御に関してあらたな視点を得た。そこで今年度は、V*の内皮細胞における発現状態と、漏出性との関連についてさらなる知見を得るための解析を行った。その結果、TGFβシグナル抑制により、細胞外ドメインの切除が促進され、その切除された断片(V*細胞外ドメイン)が漏出性を直接制御しうる可能性を見出した。これらの知見より、V*陽性内皮細胞におけるTGFβシグナルの抑制が、(1)壁細胞接着の減少と、(2)内皮細胞での直接的な漏出性制御という両面から、ナノ粒子送達性の増強をもたらしていることが示唆された。 さらに、内皮細胞と壁細胞の相互接着性について詳細な解析を可能にすると期待される3次元培養法確立に着手した。現時点で、培養プロトコルはほぼ完成に近い状態である。 以上のように、内皮細胞―壁細胞間の接着と漏出性を制御しうる分子基盤の手がかりを得たと同時に、次年度の解析に必要となる系も確立されたため、内皮細胞間のタイトジャンクション形成制御に関する次年度以降の研究推進に十分な結果を得たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に確立した、内皮細胞と壁細胞の三次元培養系を利用し、実際に分子V*が内皮細胞と壁細胞の接着に関与することを確認する。さらに、siRNAを用いたV*の発現抑制系や、ウイルスベクターを用いた強制発現系を確立し、その発現制御による血管漏出性への影響を、通常の平面培養およびin vitro三次元培養系等を用いて実際に分子V*が内皮細胞と壁細胞の接着に関与することを確認し、さらにはV*が血管漏出性に寄与しうるかどうか機能的な評価を行う。 また並行して、V*を介した壁細胞の接着について、時間的推移に関する知見を得る。 さらに、新たに開発したin vivo腫瘍モデルを用い、V*発現の有無による壁細胞接着と血管安定化および漏出性との関与について解析を行う。同時にタイトジャンクション分子の発現量に関しても評価を行い、壁細胞との接着状態と、内皮細胞間タイトジャンクションの相関に関して新たな知見を見出す予定である。また、これらの検討において、内皮細胞としてMS1以外、壁細胞として10T1/2以外のヒト由来細胞株を用いることが可能であるかどうかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度、予算は主に「物品費」に用いる。具体的には、分子生物学実験のための器具、試薬類、細胞培養のための試薬、培地、器具、また免疫染色のための抗体を含む試薬類、さらに、実験動物の購入に充てる。 実験動物の飼育にあたっては本学内の共通飼育施設を用い、利用料課金が発生するため「その他」の支出対象となる。また、共焦点顕微鏡についても学内共通設備を用いて利用料課金が発生するため、「その他」の支出対象とする。 本研究の成果を論文発表する際の投稿料及び英文校正料を「その他」の支出対象に計上する。これらに加えて、国内学会発表のための「旅費」を計上する。
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