研究課題/領域番号 |
23790434
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
倉田 盛人 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40451926)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 白血病 / preB-ALL / BLNK |
研究概要 |
我々は、これまでにヒトのB-ALLにおいて高頻度に機能欠損が報告されているBLNKに着目し、この遺伝子と協調的に白血病を引き起こす候補遺伝子としてC/EBPβを同定した。また、C/ebpβにはスタートコドンの異なるLAP (liver enriched activated protein)、LIP (liver enriched inhibitory protein)の2つのisoformが存在するが、DNA結合領域は両者に共通するC末端側にあるので、競合的に働くことが知られている。そこで、Lck/Em-C/ebpβ(LAP or LIP)トランスジェニックを作製し、Blnk KOマウスと交配した。その結果、LAPを発現させると、Blnk KOマウスのpreB-ALL発症に要する潜伏期間が著しく短縮された。さらに、白血病未発症のLAP tg-Blnk (ko/ko)マウス骨髄においては、成熟B細胞の減少が見られ、特に、IL-7Rα陽性のB細胞の割合が増す高度な分化障害が観察された。BLNKはIL-7シグナルの下流を阻害するが、LAPが受容体レベルに作用することにより、IL-7シグナルに対する修飾に相乗作用を示している可能性も考えられる。また、ヒトB-ALL骨髄検体において、定量的PCRを行うとるBLNKの発現が低い群ではC/EBPβの発現が有意に高いという結果が得られた。 このことから、ヒトB-ALL発症においても、がん抑制遺伝子BLNKと発がん遺伝子C/EBPβが特異的に協調する可能性が示唆され、ヒトの分子病態を反映したpreB-ALLのマウスモデルが作成されたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験の具体的な目標の1つである「preB-ALLマウスモデルの作成」に関しては、トランジェニックマウスにおいて、preB-ALLをより早期に発症したことから順調に進展していると考えている。また、Common lymphoid progenitor (CLP)、proB細胞、preB細胞にC/ebpβの遺伝子導入を行って、骨髄移植する方法に関しては、何度か試行するも必要とする細胞数をセルソーターで十分回収できずモデルの完成に至ってはいない。しかし、分子メカニズムを解明する上ではトランジェニックで代用可能と考えている。「ヒトのB-ALLにおけるBLNK欠損とC/EBPβの発現の検証」についてであるが、ヒトB-ALLの骨髄検体73例を用いて、定量的PCRの解析を完了した。ヒトpreB-ALL細胞株5種類を現在解析中である。統計学的にも、優位にBLNKとC/EBPβの関係性が示唆された。「BLNK欠損とC/EBPβ(LAP・LIP)の協調するシグナルの同定」に関しては、BLNKがIL-7のシグナルを修飾することが報告されておりまた、C/EBPβノックアウトマウスはIL-7への反応性が低下することが報告されている。互いにIL-7を介して何らかのクロストークを行っていると考えられているが、現在その詳細は検索中である。
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今後の研究の推進方策 |
マウスモデルは概ね完成したと考えられるが、より具体的にBLNK欠損とC/EBPβ(LAP・LIP)の協調するシグナルの同定が必要と考えられる。B細胞におけるBLNKとC/EBPβを関係は十分検証されておらず、網羅的な解析が必要と考えられる。具体的にはExpression arrayを持ちた解析が必要と考えている。BLNK欠損により、C/EBPβ(LAP・LIP)の転写を調節する遺伝子にどのような変化があるか検討し、協調するシグナル経路を同定する。マイクロアレイのデータより候補が決まり次第、siRNAなどで候補遺伝子をノックアウトして協調作用がキャンセルされることも確認する。 また、ヒトpreB-ALLで同様のメカニズムが起こっているかを検証するために、細胞株を用いた実験を行う。前述のExpression arrayの候補から、ヒトでも重要な働きをしそうな分子にターゲットを絞って研究を行う。また、それらの分子が、いわゆる分子標的薬のターゲットとなっている場合には、BLNK欠損とC/EBPβ高発現のpreB-ALLに特異的に作用する薬剤の同定も行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
「C/EBPβのBLNK欠損に対する協調作用の生化学的検証」の為に、分子生物学的な解析に主眼を置く。通常用いられる定量的PCR・ウエスタンブロットなどの方法以外にマイクロアレイを用いた解析を行うため相当の研究費を使用する。 また、アレイデータよりC/EBPβのBLNK欠損に対する協調作用に重要な分子が、いわゆる分子標的薬のターゲットとなっている場合には、BLNK欠損とC/EBPβ高発現のpreB-ALLに特異的に作用する薬剤として、必要に応じて分子標的薬を適宜購入する。
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