研究課題/領域番号 |
23790444
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野島 聡 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40528791)
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キーワード | 病理学 / 網膜変性疾患 / セマフォリン / 点突然変異 |
研究概要 |
網膜色素変性症は代表的な網膜変性疾患であり、後天性の三大失明原因の一つともされる重大な疾患である。有効な治療法は現在まで確立されていない。パキスタンの研究グループから、ヒト網膜色素変性症患者において、セマフォリン分子のひとつであるSema4Aという分子の遺伝子に共通の点突然変異を有する家系が報告されており、Sema4Aの網膜組織における重要性が示唆されていた。 我々は、これらのSema4Aにおける点突然変異を有するノックインマウスを作成し、その中のひとつである変異F350Cが実際に疾患の原因になることを発見した。更に、Sema4A(F350C)変異蛋白は本来の局在部位である細胞膜表面に存在せず、細胞質内に留まるという異常な局在パターンを示していることが分かった。また、Sema4Aの立体構造モデルを作成し考察したところ、350番目のアミノ酸の側鎖のサイズが重要であることが分かった。すなわち、Sema4A(F350C)変異が起こり側鎖が極端に小さくなってしまうと、蛋白内部の空間が空洞になってしまい、高度の立体構造の崩壊が起こり、その結果、正常の局在部位である細胞表面へ存在できないという機序が疾患発症の本態であると考えられた。 更に、将来的なヒト網膜色素変性症患者に対する遺伝子治療を想定し、レンチウィルスベクターを用いた遺伝子治療の実験を行った。生後1週時点においてSema4A欠損マウスおよびSema4A(F350C)遺伝子改変マウスに対してウィルス溶液の網膜下注射を行い、色素上皮細胞特異的に野生型Sema4A蛋白を発現させたところ、本来であれば視細胞が完全に変性・消失してしまうはずの4週齢の時点においても光受容体細胞層が有意に保たれており、Sema4Aを標的とする遺伝子治療について良好な結果が得られた。この治療効果は、少なくとも4ヶ月間持続していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Sema4A(F350C)の疾患発症メカニズムについてより詳細に明らかにした。また、Sema4Aを原因とする網膜色素変性症に対してSema4Aを標的とする遺伝子治療の実験を実施し、良好な結果を得た。この結果はSema4Aの治療標的としての可能性を示した意義深い結果と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Sema4Aの異常が網膜変性疾患の原因となるメカニズムについて、概ね明らかにすることができた。これを受けて、Sema4Aの転写制御や翻訳制御の分子学的メカニズムの詳細を明らかにし、網膜変性疾患に対する病原性との関係性を検索していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度・前々年度の研究費も含め当初の予定通りに計画を進めていく。具体的には、消耗品、情報収集あるいは成果発表のための国内旅費、複写費、研究発表費等に用いる予定である。
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