研究概要 |
網膜色素変性症は網膜光受容体細胞が広範に変性し失明に至る重篤な疾患であるが、その病理学的機序については未だ不明な点が多い。Semaphorin4A (Sema4A) は、その遺伝子欠損マウスが網膜色素変性症を発症する点から、網膜色素変性症の原因遺伝子の一つと考えられており、実際にヒト網膜色素変性症患者のSema4A遺伝子においてD345H, F350C, R713Qの3種の点突然変異の報告がある。しかしながら、Sema4Aにおけるこれらの変異が実際に疾患原因となり得るのか、またなり得た場合の具体的な分子病理学的機序については知見が得られていなかった。 各点突然変異の網膜色素変性症における分子病理学的意義を評価するため、正常のSema4A蛋白の代わりに各点突然変異を有する変異Sema4A蛋白を発現する遺伝子改変マウス(ノックインマウス)を作成し、各々が網膜色素変性症を発症するかについて検討した。結果、点突然変異F350Cを有するノックインマウスは網膜色素変性症を発症した。D345H, R713Qについては疾患原性を確認できなかった。またF350C変異蛋白は350番目のアミノ酸の側鎖の体積不足により蛋白の立体構造が崩壊しており、正常の二量体・単量体構造を形成できず、結果として色素上皮細胞における正常の部位に局在できないことが明らかになり、これらの異常が病原性の本態であることが示された。また、Sema4A欠損マウスおよびF350Cノックインマウスに対し生後すぐの段階にてレンチウィルスを用い正常Sema4A蛋白を発現させ、補ってやったところ、網膜色素変性症の発症を有意に予防することができた。 以上は実際にヒト網膜色素変性症患者において存在していると考えられる病理病態機序を明らかにし、治療の可能性を示唆することに成功した意義深い結果と考えられる。
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