研究課題
肝癌は、炎症等の細胞障害を背景に発生する。慢性肝疾患や肝癌では、肝ギャップ結合タンパクであるConnexin 32(Cx32)の発現が低下することが知られている。我々はこれまでに、Cx32ドミナントネガティブトランスジェニックラット(Tg)が肝発がん物質高感受性を示すことを報告してきた。本研究では、肝障害時の細胞がん化に寄与する機構とCx32の役割を解明することを目的とし、動物モデルと培養細胞を用いた検索と肝障害時の遺伝子発現変化の解析を行った。Tgおよび野生型ラット(nTg)にAcetaminophen (APAP)を投与し肝細胞障害を誘発した後、肝発がん物質Diethylnitrosamine (DEN)を投与した。その結果、nTgと比較してTgではAPAPによる肝細胞アポトーシス誘導の抑制を認めた。一方でDENによる前癌病変形成は、APAPによりTgで有意に増強された。Cx32によるアポトーシス制御機能は、Cx32発現が低下したラット肝癌細胞C6にCx32遺伝子を導入すると、APAP誘導アポトーシスが亢進することからも確認できた。Tgを用いた解析から、Cx32機能低下状態では、障害肝細胞に対する細胞死誘導が阻害され、その結果発がん物質に対する感受性が上昇することが示唆された。cDNAマイクロアレイの結果、APAPによりTgでのみ発現上昇を伴う遺伝子としてmalic enzyme 1 (Me1) を同定した。定量的Rt-PCRにより、Me1はAPAPによりnTgでは発現変化しないのに対し、Tgでは約4倍の発現上昇を認めた。またMe1は肝癌細胞C6において発現上昇を認め、Cx32遺伝子導入により発現が半分以下に低下した。以上より、Cx32はアポトーシスの制御により、肝障害を背景とする肝発がん過程を抑制することが明らかとなり、Me1が相互因子として同定された。
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