研究課題/領域番号 |
23790451
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
横山 隆志 公益財団法人がん研究会, がん研究所 発がん研究部, 研究員 (00535833)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 造血 / Trib1 / Trib2 / 白血病 / C/EBPa / 顆粒球分化 / IL6r / ノックアウトマウス |
研究概要 |
白血病原因遺伝子Trib1およびTrib2 KOマウスの解析をおこない、正常組織における発現と造血細胞の分化制御機構における役割について検討した。Trib1、Trib2の各ヘテロKOマウスの成体および13.5日胚の凍結切片を作製し、βガラクトシダーゼ染色によりTrib1とTrib2の発現を調べた。肝細胞や膵臓ラ氏島β細胞、皮膚の基底層や毛嚢ではTrib1のみが発現しており、他に小脳プルキニエ細胞、腎尿細管のヘンレ係蹄、末梢の気管支上皮、消化管上皮、血管内皮などでTrib1の強い発現がみられた。一方でTrib2は神経細胞と一部のグリア細胞、ヘンレ係蹄以外の尿細管、糸球体、中枢側の気管支上皮、消化管筋層、血管平滑筋などで強い発現がみられ、心筋と骨格筋ではTrib1/2のどちらも発現していた。いずれもホモKOマウスは雌が不妊である以外に重篤な異常は見られないが、Trib1のホモKOマウスは生まれる割合が著しく低く胎児期の異常で死亡している可能性が考えられた。Trib1ホモKOマウスと、Trib1 flox/flox Mx1-CreマウスにpIpCを腹腔投与して骨髄細胞特異的にTrib1をKOさせると、いずれも骨髄内の分葉核白血球の割合が増加した。骨髄細胞ではC/EBPαタンパク量と、C/EBPαの標的遺伝子であり顆粒球分化を誘導する遺伝子IL6rの発現亢進がみられ、Trib1は正常造血においてもC/EBPαを分解により調節し顆粒球分化を制御していることが示唆された。一方Trib2ホモKOマウスでは異常が見られなかった。次にTrib1 flox/flox Trib2 ko/ko Mx1-Creマウスで同様にTrib1を欠失させてTrib1/2ダブルKOの影響を調べたところ、Trib1シングルKOと同様に分葉核白血球は増加したが、造血幹細胞や顆粒球前駆細胞の数に異常は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に記載した通りTrib1、Trib2各ノックアウトマウスの成体組織および発生過程における発現を調べ、正常造血におけるTrib1の顆粒球分化制御とその分子機構を明らかにした。現在はさらにTrib1 KOマウスの胎児期の異常や、Trib1/2ダブルKOマウスの解析を予定している。またTrib flox/Trib2 KOマウスの作製と正常造血における機能解析もおこなったが、現在のところ正常造血に重篤な異常はみられていない。このため白血病発症におけるTrib1/2機能についても検討している。
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今後の研究の推進方策 |
Trib1/2をノックアウトしても造血幹細胞や顆粒球前駆細胞の数に異常がなかったため、今後はさらに造血能におけるTrib1/2の機能についても検討する。Trib1、 Trib2 シングルKOマウスおよびTrib1/2ダブルKOマウスから骨髄細胞を採取して、放射線照射したマウスに移植し正常な造血がおこなわれるかを調べる。またTrib1 flox/flox Trib2 ko/ko Mx1-Creマウスの骨髄細胞も同様に移植後、pIpCを投与してTrib1をノックアウトし、正常な造血が維持されるかを確認する。さらに白血病発症におけるTrib1/2の機能についても検討を進めている。Trib1/2コンディショナルダブルKOマウスの骨髄細胞に種々の白血病遺伝子を導入して不死化細胞株の樹立を試みたところ、Hoxa9/Meis1はtransformを誘導したが、MAPキナーゼ経路の活性化を引き起こすc-KitD816V、FLT3-ITDおよびBCR-ABLはいずれもtransformを誘導しなかった。このことからTrib1/2はRas/MAPキナーゼ経路の活性化を介した白血病発症に必須である可能性が考えられた。今後の計画として、Trib1およびTrib2 KOマウスの骨髄細胞にc-KitD816V、FLT3-ITDおよびBCR-ABLを導入してcolony replating assayをおこない、Hoxa9/Meis1やE2A-HLFなどMAPキナーゼの直接活性化に関与しない白血病遺伝子を導入した場合と比較することで、MAPキナーゼ経路の活性化を介した自己複製能の亢進におけるTrib1およびTrib2の機能を明らかにする、さらにTrib1コンディショナルKOマウスの骨髄細胞にこれら白血病遺伝子を導入して骨髄移植後、Trib1をノックアウトさせることで発症の遅延がおこるかを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も引き続きノックアウトマウスの解析および細胞培養を中心とした研究となるため、細胞培養用液体培地や血清、サイトカイン類、マウスの購入および維持費が必要であり、またタンパク質発現やFACS解析用の抗体購入に使用する。また国内および海外での学会発表を予定しており、その際の交通・宿泊費や論文投稿料に使用する予定である。
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