研究課題/領域番号 |
23790453
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
寺原 和孝 国立感染症研究所, 免疫部, 主任研究官 (50469954)
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キーワード | ヒト化マウス / HIV-1 / 樹状細胞 |
研究概要 |
H23年度までの解析結果から、ヒト化マウスにR5・X4 HIV-1を同時に感染させた際、急性期(感染後5週以内)ではR5 HIV-1は血中に恒常的に認められるのに対し、X4 HIV-1の検出は一過性であり、同時に、CCR5+ CD4+ T細胞に対するX4 HIV-1の感染性の低下が認められた。このことから、個体レベルでのR5ウイルス優位性にはCR5+ CD4+ T細胞に対するX4 HIV-1の感染性の低下が関与するものと考えられた。 そこでH24年度は、CCR5+ CD4+ T細胞に対してR5・X4 HIV-1同時感染を行い、細胞侵入から宿主ゲノム挿入に至るR5・X4 HIV-1それぞれの定量的解析をex vivoにて行った。その結果、細胞への侵入はR5ウイルスの方がX4ウイルスよりも速やかに進行することが明らかとなった。しかしながら、ゲノム挿入前の逆転写ウイルスDNA量、また、宿主細胞ゲノムに挿入されたプロウイルス量についてはR5・X4ウイルス間での明確な相違は認められず、細胞侵入の際の量的差異がそのままこれらのウイルスDNA量に反映されることが推察された。 さらに、ヒト化マウスを用いてin vivoでのHIV-1の全身伝播性について評価した。ヒト化マウスにR5 HIV-1を感染させ、その後の血中ウイルス量の経時的変動を解析した結果、CD4+ T細胞の絶対数は少ないものの骨髄系細胞の分化頻度の高いマウスでは、CD4+ T細胞の絶対数は多いものの骨髄系細胞の分化頻度の低いマウスに比べ、速いHIV-1の全身伝播を認めた。このことから、HIV-1初期感染の全身伝播に骨髄系細胞(特に樹状細胞)が重要な役割を担っていることが推察された(PLoS ONE, 8, e53495, 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIV-1感染動物モデルとしてのヒト化マウスの妥当性について評価した結果、1)R5 HIV-1の複製レベルは活性化CCR5+ CD4+ T細胞の頻度に反映されること、2)初期感染時の全身へのウイルス伝播にはCD4+ T細胞ではなく骨髄系細胞の分化頻度が重要であること、が明らかとなり、本成果を学術雑誌上にて公表した(PLoS ONE, 8, e53495, 2013)。 また、H24年度はH23年度に掲げた「HIV-1潜伏感染プール形成についての解析」、ならびに「HIV-1潜伏感染プール形成における樹状細胞を介したHIV-1伝播の影響についての解析」について更に深く追求することとした。その結果、HIV-1潜伏感染プールとしてCCR5+ CD4+ T細胞の重要性を示唆するに至り、現在、学術雑誌へ投稿準備中である。 申請当初に掲げた計画通りには進行できていないものの、個々に掲げた課題に対して予想以上の知見が得られ、現在執筆中のものも含めその成果を学術雑誌等で公表するに至っていることから、総じて本研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
樹状細胞を介したHIV-1感染伝播がX4・R5 HIV-1それぞれのウイルスの潜伏化形成にどのような影響を及ぼすのかについて焦点をあてる。具体的には、ヒト化マウスを用いたHIV-1感染モデルによってウイルスの全身伝播性について評価するとともに、ウイルスの潜伏化(宿主ゲノムにおけるプロウイルス形成)を許容するCD4+ T細胞の具体的なフェノタイプの同定を行う。さらに、ウイルス潜伏感染細胞からのウイルス再活性化についてもex vivoで評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に予定していた一部の研究計画については現在も進行途中であることから、平成24年度に使用を予定していた研究費の一部は平成24年度に繰り越すこととなった(20万円)。平成25年度はこの繰り越し分を含め、120万円の研究費を請求する。その内訳とし て、主に、ディスポーザブル実験器具、細胞培養関連試薬、組織学的解析関連試薬、抗体等を含むフローサイトメトリー解析関連試薬等の実験に必要な消耗品に物品費として100万円を充てる。また、研究成果の発表に係る学会参加費・旅費に5万円、論文投稿に係る費用に15万円を充てる。
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