研究課題/領域番号 |
23790454
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
鈴木 忠樹 国立感染症研究所, 感染病理部, 研究員 (30527180)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 成人T細胞白血病 / HTLV-1 / TAX / 動物モデル / 癌幹細胞 |
研究概要 |
成人T細胞白血病 (ATL)は、HTLV-1の感染後数十年を経て発症する極めて悪性度の高い末梢性T細胞腫瘍である。我々は、HTLV-1のtax遺伝子をlck近位プロモーター下に発現させるトランスジェニックマウスを作成し、このマウスではATLと同様の白血病(mATL)を発症することを報告している。 最近、この白血病細胞中に癌幹細胞が存在していることが報告され、新たな治療標的として有望視されている。癌幹細胞を標的とした治療法を開発するためには、正常の細胞、幹細胞に極力影響を与えないような癌幹細胞特異的な機構を標的とすることが重要でありことから、我々は癌幹細胞で特異的に発現している分子を同定するために白血病細胞の中から癌幹細胞を集め質量分析計によるタンパク質発現差異解析を行った。mATL細胞のがん幹細胞はCD38(-), CD71(-), CD117(+)という特徴を持っている事が明らかになっていたが、この解析によりCadherinを新たなmATLがん幹細胞のマーカーとして同定した。Cadnerinは非がん幹細胞での発現がほとんど見られず、mATLがん幹細胞に特異的に発現していた。また、このcadherinは非古典的カドヘリンに分類され、正常の血球幹細胞などでの発現は報告されていない。このような理由から、mATL細胞によって起こる白血病の良い治療標的になることが考えられた。そこで、この分子に対する抗体を用いてCadherin発現細胞除去によるIn vivo白血病形成能をSCIDマウスを用いた移植実験により検討した。その結果、処理群において血中異型リンパ球数が低下する傾向が見られたが、有意な差が見られなかった。今後、特異的なモノクローナル抗体を作製し、持続投与による治療実験を試みる必要性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、癌幹細胞の細胞表面マーカーの発現パターン解析を行い、Cadherinは、以前同定された他のがん幹細胞のマーカーCD38(-), CD71(-),CD117(+)と相関していることを明らかにした。さらに、当初は平成24年度に予定した実験であるSCIDマウスに移植したmATL細胞の白血病形成能についてCadherin発現細胞除去により抑制されるかを検討した。1×10^6個のCadherin発現細胞を除去したmATL細胞を移植した場合も移植後、約1ヶ月で白血病を発症し、脾臓内に異型リンパ球の浸潤が認められた。しかしながら、明らかな有意差はないものの末梢血中のリンパ球数はコントロール群に比べCadherin発現細胞除去群において低い傾向が見られた。1×10^6個のmATL細胞中には約300個のがん幹細胞が存在するが、今回の処理では全てのがん幹細胞が除去できていないと考えられ、今後、実験系の至適化を行う必要が考えられた。条件検討が必要となる動物実験を優先させた結果、免疫組織化学的解析に遅れが見られるが、抗体の作成や選定は進んでおり、さらに特異的モノクローナル抗体の作成も行っている事から、おおむね研究は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)カドヘリン(+)細胞とカドヘリン(-)細胞の腫瘍形成能比較 カドヘリンが腫瘍形成にどのように関わっているかを検討するためにカドヘリン陽性の細胞集団と陰性の細胞集団に分画し、それぞれを免疫不全マウスに移植し腫瘍形成能を比較する。昨年度までの結果により移植の条件を検討する必要が考えられた事から、移植細胞数を段階的に設定し移植実験を行う。腫瘍形成能については、白血病の発症だけでなく、どのような臓器に腫瘍細胞が浸潤しているかなど病理組織学的に詳細に検討する。2)mATLL細胞由来白血病発症マウス組織でのカドヘリンの免疫組織化学的解析 mATLL細胞を免疫不全マウスまたはTaxトランスジェニックマウスに移植すると、1ヶ月から2ヶ月で白血病を発症する。そこで、この白血病発症マウスの脳、心、肺、肝臓、腎臓、脾臓、腸管、リンパ節、骨髄、末梢血などを採取し、カドヘリン陽性腫瘍細胞がどのような組織に存在するかを免疫組織化学的解析により検討する。3)カドヘリンの細胞間接着能の検討 カドヘリンはホモオリゴマーもしくはカドヘリンファミリーに属する他の分子とヘテロオリゴマーを形成し細胞間接着に寄与していることが知られている。そこで、同定されたカドヘリンとオリゴマーを形成することが知られている分子の分泌型タンパク質を合成し、その分子を用いて接着能の検討を行う。この分泌タンパク質は、293フリースタイル細胞などの哺乳類細胞の浮遊細胞系を用いた大量発現系を用いて作成する。接着能は、分泌型タンパク質を蛍光色素で標識し、それを細胞に反応させてフローサイトメーターで解析することにより定量する。
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次年度の研究費の使用計画 |
カドヘリン(+)細胞とカドヘリン(-)細胞の腫瘍形成能比較の実験のためには、SCIDマウスを購入する必要がある。また、カドヘリンに対する抗体を購入する必要もあり、この実験に用いる動物や試薬を購入する。mATLL細胞由来白血病発症マウス組織でのカドヘリンの免疫組織化学的解析の用いる抗体やスライドガラス、染色試薬を購入する必要がある。また光学顕微鏡のレンズなども購入する必要がある。カドヘリンの細胞間接着能の検討の用いる浮遊細胞培養系を構築するためにシェーカーなどを購入し、さらに特殊な培地やトランスフェクション試薬、プラスミドを購入する必要がある。また、精製のためのカラムシステムも整備する必要がある。また、これらの研究で得られた結果を学会等で発表するために旅費や学会参加費が必要となる。
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