研究課題/領域番号 |
23790456
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
新井 恵吏 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (40446547)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / 多段階発がん / 慢性炎症 |
研究概要 |
肺腺がん症例の肺切除検体より得られた非がん肺組織検体Nとがん組織T各189検体(うちEGFR異常解析が既に行われている検体163ペア),転移性腫瘍に対する肺切除検体より得られた正常肺組織C36検体を用いて,イルミナ社Infinium HumanMethylation27 BeadChip Kitによる網羅的DNAメチル化解析を行った.CとNとで有意に異なるDNAメチル化状態を示すプローブを,性・年齢・実験バッチで補正したロジスティックモデルで解析したところ,3,546プローブにおいてDNAメチル化状態が有意に異なっていた(FDR, q=0.01).肺がん症例の非がん肺組織は,既にDNAメチル化異常を伴う前がん状態であると考えられた.NのDNAメチル化プロファイルを用いて,163症例について教師なし階層的クラスター解析を行ったところ,肺腺がん症例を3群に分けることができた.クラスターAは,重喫煙者の荒廃した肺組織から生じ,局所進行性を示す肺腺がん症例,クラスターBは,非喫煙者で,比較的予後良好な肺腺がん症例,クラスターCは,軽喫煙者の気腫性変化の軽度な肺から生じ,最も悪性度が高く予後不良な肺腺がん症例と特徴づけられた.肺がんは喫煙を高リスク要因として発生するがんであり,喫煙は気道の慢性炎症を誘発して慢性閉塞性肺疾患を誘発するが,本解析の結果から,喫煙と慢性炎症の観点より,肺腺がんの複数の発がん経路が推察された.すなわち,重篤な喫煙による高度の炎症と肺構築の破壊を背景とした発がん経路,軽度の喫煙と軽微な組織変化にも関わらず,悪性度の高いがんを生じる発がん経路,喫煙と無関係な発がん経路である.同様のアレイ解析を,複数のヒト肺がん由来の培養細胞で行っている.現在,クラスターA・B・Cに相当するDNAメチル化プロファイルを示す肺がん細胞を特定すべく解析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Infinium HumanMethylation27 BeadChip Kitを用いた解析のうち,サンプル収集・核酸抽出・アレイハイブリダイゼーションについては順調に進行している.データマイニング作業に予定よりも時間がかかったが,解析を進める過程で,チップ間誤差の評価やその補正の必要性などを考慮する必要が生じたこと,高度なデータマイニング解析作業を共同研究者に依頼するにあたり,順番待ちの状態になったことが主な原因と考えている.その間には培養細胞の解析を進めた.
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今後の研究の推進方策 |
肺腺がん症例の背景非がん肺組織Nの各クラスターから,前がん状態から生じ,その肺に生じたがんに受け継がれ,かつクラスター間で有意に異なるDNAメチル化プロファイルの抽出を進める.既に取得したヒト肺がん培養細胞株のDNAメチル化プロファイルと参照し,そのプロファイルを有する肺がん培養細胞株を選択する.それらの培養細胞株を,喫煙と慢性炎症の観点から,異なる経路をとる肺発がんのモデルとすることを目指す.また,より発がん要因として慢性炎症の寄与が明瞭な,肝炎ウイルス関連肝細胞がんの多段階発がん諸過程にあるヒト組織検体,ならびにヒト肝がん培養細胞を用いて,同様の網羅的DNAメチル化解析を行う.DNAメチル化プロファイルと同時に,インターロイキン等の炎症に関連する分子の発現を解析し,慢性炎症を基盤とし,DNAメチル化異常を伴う発がん経路モデルの理解を進めることを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
クラスター毎の肺がん組織検体,ならびに肺がん培養細胞株におけるDNAメチル化プロファイルの詳細を解析するための,核酸抽出・バイサルファイト変換・パイロシークエンス法試薬・MassARRAY法試薬・消耗品等を購入する.肝多段階発がんの諸過程にあるヒト組織検体ならびにヒト肝がん培養細胞株の網羅的DNAメチル化解析のための,Infiniumアレイに関する試薬・消耗品等を購入する.また,DNAメチル化と合わせて解析し,発がん経路の理解を進めるための,FISH試薬・RT-PCR試薬・Western blot試薬・細胞培養用消耗品等を購入する.研究の成果を発表する際の,学会参加旅費や英文校正費等を支出する予定である.
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