研究課題/領域番号 |
23790462
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
井上 信一 杏林大学, 医学部, 助教 (20466030)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / マラリア / γδT細胞 / 樹状細胞 |
研究概要 |
マラリアは熱帯・亜熱帯地域に流行し、毎年約3億人の罹患者と100万人以上の死者を出している世界で最も被害の大きな感染症の一つである。マラリアの発症は、マラリア原虫が赤血球に感染し増殖・破壊を繰り返す事によって起こる。マウスマラリアモデルを用いた研究を中心にして、宿主内では、様々な免疫担当細胞が連携して働く事により、マラリア原虫に対する防御をおこなっていることが徐々に解明されてきている。一方で、それら免疫担当細胞の多くを供給する造血細胞(前駆細胞・幹細胞)は、マラリア原虫感染によってその動態がかなり大きく変動するにもかかわらず、その分子メカニズムや病態への影響はほとんど明らかにされていない。本研究は、マラリアにおける造血系撹乱とその制御メカニズムの解明を最終目的としている。本年度は、まず、マラリア原虫感染マウスの骨髄内での造血幹細胞や各種血球細胞の数的変動をフローサイトメトリーにて解析した。これまで、感染後においても造血幹細胞は数の増減はみられないとされてきたが、造血幹細胞においても減少と増加の時期がある事が確認された。また、マラリアの免疫に重要な役割を担う樹状細胞の前駆細胞における数の変動を明らかにした。今後は、これをもとに樹状細胞の供給機構を明らかにすることが期待できる。また、感染後に増多する造血細胞を造血サイトカインを添加したin vitro培養系での血球分化能の評価をおこなったところ、血球コロニー形成能が維持されている事が確認された。そして、γδT細胞欠損マウスでは感染後の造血細胞の増加が抑えられている事が確認され、γδ T細胞が造血に関与している事が示唆された。γδT細胞と造血の関連性はこれまで知られておらず、今後の研究によりその詳細が明らかなる事が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、マウスマラリアモデルを用いた研究によりマラリア原虫の感染による造血細胞(前駆細胞・幹細胞)の変動とその病態への影響と、その制御メカニズムを明らかにする事にある。研究計画書の予定通り、本年度はマラリア原虫感染マウスの骨髄内での造血幹細胞や各種血球細胞の数的変動をフローサイトメトリーによって解析した結果、造血幹細胞においても減少と増加の時期がある事が確認された。また、in vitro培養系の実験も予定通り執り行い、増多する造血細胞の血球コロニー形成能が維持されている事が確認された。さらに、樹状細胞の前駆細胞における数の変動を明らかにした。樹状細胞はマラリア防御免疫に非常に重要な役割を担う細胞であり、その供給機構を明らかにする事は、本研究の目的を達成するにあたり非常に重要であると考えられる。残念ながら、当初の計画にある感染後における造血細胞の分裂能のin vivo解析と感染時の造血関連因子の探索については、今年度で完遂する事ができなかった。しかしながら、来年度の研究計画と同時に進行させていく事で、その点における予定の遅れをカバーする事は可能であると考えている。しかしながら、当初の研究計画にあるより早期に造血細胞の増多に関連する細胞(γδ T細胞)を特定することができた。γδT細胞と造血の関連性はこれまで知られておらず、マラリア原虫感染時の新たな造血制御メカニズムを明らかにする事が期待できる。以上より総合的に自己評価すると、本研究は、研究目標の達成に向かっておおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、予定の範囲内で研究を進める事が出来ているので、次年度も研究計画書通りに進めていく。ただし、今年度に完遂できなかった研究が残っているので、それについては引き続き次年度に遂行する事とする。ただし、当初の研究計画にあるより早期に造血細胞の増多に関連する細胞(γδ T細胞)を特定することができたので、γδT細胞が造血に関与する仕組みの解析を中心に行っていくこととする。それにより、研究のさらなる進展が期待される。また、樹状細胞の供給の仕組みについても、未解明なことがおおいので、それについての解析もおこなうこととする。樹状細胞は防御免疫に非常に重要な役割を担う細胞であり、それを追究することは、本研究の目的達成にも大きく役立つと考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、今年度に完遂できなかった研究計画を執り行う。その際、マラリア原虫感染マウスの骨髄内で変動する造血幹細胞と正常マウスの造血幹細胞をフローサイトメトリーにより純化・採取して、「マイクロアレイ解析」により、その分子的変化を詳細に解析することを予定していたが、「次世代シークエンサー」によるRNAシークエンシングによる解析に変更する。それにより1サンプル当たりのコストが予定よりも安価にできるため、より多くのサンプルを解析する事が可能となり、計画がより改善される事となる。さらに、増多する造血幹細胞の分裂能のBrdUを用いたin vivo解析はそのまま行う。これらの実験二項目によって、次年度に繰り越す研究費を使用することとする。また、次年度の研究費の使用に関しては、研究計画書にのっとる。
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