研究課題
エキノコックス症はその症例の発生以来70年余りが経過しているにもかかわらず、毎年10~20名の新規患者が発生し、地域住民あるいは旅行者等に対し重大な脅威となっている。最近、飼いイヌのエキノコックス(多包条虫)感染例も報告され、感染源とヒトとの接触機会は増大していると考えられている。 これまでの研究により、研究代表者はエキノコックス感染イヌの血清に特異的な反応を示す本寄生虫由来タンパク・糖タンパク質分子を見いだしており、エキノコックス終宿主ワクチン抗原候補分子探索の基盤を確立した。23年度は新規糖タンパク質抗原の構造と機能を明らかすること、また終宿主における感染防御免疫を誘導する経口ワクチンの開発を目指した終宿主の免疫実験を試みることを主目的とした。 抗原となる糖タンパク質抗原はエキノコックス幼虫から高速液体クロマトグラフィー装置によって精製した。この抗原を経口投与に適用できるか否かを確かめるため、消化管プロテアーゼを用いて消化し、ゲルろ過およびウェスタンブロットにより消化耐性を分析した。その結果、生体内での消化液に近い濃度のペプシン、トリプシン及びキモトリプシンに有意な消化耐性を示すことが明らかになった。さらに、得られた抗原をイヌにアジュバント(CTB)と共に、腸溶性ハードカプセルに充填し経口投与するとともに同様な抗原を経鼻免疫する方法を試みた。免疫を終えたイヌに対し、約50万のエキノコックス幼虫を経口投与し、感染を成立させ、感染から35日目に虫体寄生数を測定した。その結果、本抗原を経鼻および経口的に免疫したグループのイヌ4頭では虫体寄生数は、コントロール群のそれらより有意に低く、本研究により得られた高分子糖タンパク質が、宿主感染防御免疫を誘導すると考えられた。しかしながら、まだ統計的に有意な処理が行えるデータが得られておらず、現在も実験を継続中である。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度予定していた、抗原の実験動物への投与、感染防御実験が予定どおりに実施できた。ワクチン抗原候補の消化管プロテアーゼに対する耐久性が予想以上であることがわかり、抗原の安定化を考慮する必要性が低減した。そのためコントロール群2頭及びワクチン群5頭の免疫実験を実施することが出来た。
ワクチン抗原の効き目を評価するためには、アジュバントのみを投与したコントロール群を実験に含めなければならない。24年度は統計的に有意な処理が行えるデータを得るため、前年度と同様の実験を繰り返す。また、より効果的なワクチン抗原の免疫方法を検討する。23年度、震災の影響により交付金の配当が遅れたため、感染実験のスケジュールが24年度にずれ込み、30万円程度を24年度に繰り越したが問題なく研究期間中に実験を終了できると見込んでいる。
平成24年度も引き続き統計処理可能な頭数の動物を用いて実験を行う必要があるため、実験動物約8頭分の費用に加え、糖タンパク質抗原の調製を年間を通して実施できる費用を計上した。
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PLoS Neglected Tropical Diseases
巻: 6 ページ: e1570
International Journal for Parasitology
巻: 41 ページ: 1121-1128