研究課題/領域番号 |
23790468
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
林 史夫 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60400777)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 3型分泌システム / サルモネラ |
研究概要 |
グラム陰性病原菌による感染症の発症は3型分泌装置と呼ばれるナノサイズの注射器によってエフェクター(病原因子)タンパク質が宿主細胞に注入されることから始まる。多くの病原細菌の感染機構を解き明かす鍵はエフェクターの毒性発揮機構とエフェクターの分泌機構の解明だといわれている。これまでに分子生物学的な観点からサルモネラにおけるエフェクター分泌機構解明が進んできた。申請者は定量的情報の取得の重要性を考えており,将来的には試験管内再構成を念頭に置いたタンパク質の大量調製と試験管内評価に基づくエフェクター分泌機構の解明に取り組んできた。本研究課題1年目は,試験管内再構成に不足していたエフェクター,内膜タンパク質の調製,その他,エフェクター分泌機構に必要なタンパク質の調製を目的とした。 申請時点で,本来の構造を保ったエフェクターSptP,SptP1-158(SicP結合ドメイン)の調製は,様々な検討にもかかわらず成功していなかった。申請者は,新しい試みとして,巻き戻しの際にSicPを共存させ,SicPのシャペロン効果でSptP1-158,もしくはSicPとの複合体としての調製法を提案し,この方法によりSptP1-158/SicP複合体の調達に成功した。SptPとSicPとの相互作用実験の基盤ができた。また,InvCのATPase活性を促進するタンパク質Xの精製に成功した。InvCについて,これまでに発現系,調製法を確立していたが,N末端の外部配列が正しい多量体形成に影響を与える可能性が示唆されたため,発現系,調製法の改良を行った。その過程で,InvCはGSTと強固に複合体を形成する事実を見いだした。このことはGSTタグを用いたプルダウンアッセイに不適である可能性を示唆した。反転膜小胞の調製を試みているが,内膜タンパク質を大量に含む小胞の調製にはもう少しの検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SptP1-158(SicP結合ドメイン)とSicPの相互作用パラメータを得るためには,それぞれのタンパク質を個別に調製する必要があった。これまでにSicPの調製はできたものの,SptP1-158の調製はそのタンパク質の高い疎水性などの影響で非常に困難であった。申請者は尿素存在下でSptP1-158を調製し,別に調製した天然型のSicPと混合することで複合体が形成できることを示した。さらに複合体形成のSicP濃度依存性を調べたところ,(まだまだ正確に評価する必要は残されているが)概ねサブマイクロモーラーの解離平衡定数を示した。これらの成果は当初計画を概ね達成している。当初計画にはなかったが,複合体形成に与えるSptPのSicP結合ドメインの詳細な情報を得るため,そのドメインを短くした複数のSptP誘導体の調製を始めた。SptP1-158/ SicP複合体のInvC ATPase活性への影響を調べる計画であったが,これまでに確立したInvC発現系由来の標品では,InvCの多量体化に問題があることが明らかになった。申請時には想定できなかった問題に直面したが,正しい情報を発信するためにはその問題解決は不可避であり,予定外の時間を費やすことになった。そのため当初計画より遅れが生じているが,その過程でInvCはGSTと強固な複合体を形成することを見つけた。また,InvCと相互作用する新規タンパク質Xの調製系を確立した。目的の反転膜小胞調製法確立にはもう少しの検討が必要な状況である。一部未達成な部分があるが計画以上の成果もあることから,概ね順調に展開していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は修士過程1年生とともに進めてきた。24年度も彼らを中心としたサポートを得ながら進める予定である。様々な技術,思考を身につけた彼らは本研究推進に昨年度以上に貢献してくれると考えている。さらに新4年生2名を本研究推進のために配置し,彼らのサポートも得る予定である。また,申請時に予見困難であったいくつかの問題への対処がほぼ完了したので,当初計画に集中できるものと考えている。タンパク質精製装置の制御PC老齢化により,たびたび不調を来した。PCを交換するとソフトウェアのアップグレードも必要になり,その額(40万円強)は準備できなかった。来年度のアップグレードを可能にするため繰り越しを行った。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:SptP1-158をはじめとする様々な欠失タンパク質,SicP, InvC,タンパク質Xなどの発現・調製,様々な相互作用アッセイ,反転膜小胞調製のために試薬,培地,プラスチック製品,カラム等を購入する。抗体作製の外注も検討している。旅費:細菌学会総会,生物物理学会年会での成果発表を考えており,内容によっては国際会議での発表も検討する。また,反転膜小胞調製を共同で行っている奥野准教授(山形大学)を訪ね,打ち合わせ等を行う。人件費,謝金:論文校閲に対する謝金を予定している。その他:通信費,複写費,論文投稿料を予定している。
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