研究課題/領域番号 |
23790468
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
林 史夫 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60400777)
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キーワード | 3型分泌 / サルモネラ |
研究概要 |
グラム陰性病原菌による感染症は3型分泌装置と呼ばれるナノサイズの注射器によってエフェクタータンパク質が宿主細胞に注入されることから始まる.多くの病原菌の感染機構を解き明かす鍵はエフェクターの毒性発揮機構とエフェクターの分泌機構の解明だといわれている.これまでに分子生物学的な観点からサルモネラのエフェクター分泌機構が検討されてきた.申請者は定量的情報の取得が大切であり,将来的には試験管内再構成を念頭に置いたタンパク質の大量調製と試験管内評価に基づくエフェクター分泌機構の解明に注力してきた。本研究課題では,3つの目標を立てた. SptP1-158とSicPとの相互作用を試験管内で評価するためにはそれぞれを別々に調製する必要がある.しかし,SptP1-158は疎水性が強く本来の構造を保ったタンパク質として調製できなかった.そこで,新しい試みとして尿素下で変性状態として精製した.変性状態で調製したSptP1-158と天然状態で調製したSicPをある割合で混合し,複合体形成を確認した.さらに,C末端切断型SptPを複数種調製し,真にSptP/SicP複合体形成に必要な領域は106-136残基であること,89-105残基は複合体形成に必須ではないが,SicPと相互作用して水溶性の構造に変換することを明らかにした.SptP/SicP複合体は後に解離し,SptPのみが宿主細胞に輸送されることを考えれば,今回の結果は非常に重要であり,これまで信じられていたSptP/SicP複合体の様相に一石を投じる. 新たなInvC大量発現・調製系を構築し,ATPase活性が正の協同性を示すこと,リポソームにより活性化されること,SicP, SptP, SptP/SicP複合体のいずれもATPase活性を増大しないことを明らかにした.内膜タンパク質を大量に含む小胞の調製にはもう少しの検討が必要だった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エフェクターのシャペロンとの複合体形成はエフェクターの菌体内での安定性と宿主細胞に向けた輸送の両面で重要である.これまでのX線結晶構造解析により,SptP36-139/SicP複合体はSptP36-139全体がSicPを包み込む構造であることが知られている.しかし本研究で,複合体形成に真に必要な領域は106-136残基であること,89-105残基は複合体形成に必須ではないが,SicPと相互作用して水溶性の構造に変換することを示した.これら結果は,複合体の形成機序や溶液中での状態を新しく提案したことに加え,SptP分泌時に必要なSptP/SicP複合体解離メカニズムの解明に重要な情報を与えるはずである.当初計画以上の成果が得られたと考えている. SptP/SicP複合体の解離にはInvCのATPase活性が必須であることがこれまでの分子生物学的な取り組みで示されている. InvCのATPase活性がSptP/SicP複合体の解離を導くかどうか,各タンパク質を調製して試験管内で調べることが本研究課題の目標の一つであった.初年度はGST-InvCを大量発現させInvCの調製を試みたが,InvCはGSTと強固な複合体を形成するという予想外の結果になった.今年度はその問題を克服し,InvCの精製に成功した.そのInvCと先述のSptP1-158/SicP複合体を用いて,複合体存在下でのATPase活性を調べたところ,活性の増加も,複合体の解離も起きなかった.この結果は,当初の目的は果たすとともに,第3の因子が必要であることを示唆した. 第3の因子として考えられた内膜タンパク質を大量発現するサルモネラ変異体の作出はデザインから再考する必要がある. 第3の目標は課題を残したが,その他の目標は当初計画に準じる成果もしくはそれ以上の成果を挙げることができたと言えるのではないかと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
論文を作成しているが,今年度内の受理は困難な可能性があったため,論文投費,別刷り購入費として,また,審査の過程で追加実験や英文校正を要求され時の消耗品費と英文校正費として期間延長を申請した.受理に向けて確実に進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
人件費・謝金:論文校正に対する謝金を予定している. その他:論文投稿費,別刷り購入費を予定している.
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