研究課題
赤痢菌を選択的に標的とするオートファジーにおけるTecpr1の機能解析をおこなった結果、Tecpr1はオートファジーに必須のAtg5およびWIPI-2に結合し、赤痢菌を特異的に認識する必須のカーゴレセプターとして機能していることが明らかになった。興味深いことにTecpr1はサルモネラ菌やA群連鎖球菌など他の病原細菌、傷害を受けたミトコンドリア、アグリソームを選択的に標的とするオートファゴソームにも局在した。さらに、tecpr1-/- MEFではアグリソームや脱分極し形態が異常なミトコンドリアが蓄積していた。このことはTecpr1が選択的オートファジーにおいて広く一般的に関与していることを示唆しており大変興味深い。 C57BL/6またはBALB/cコンジェニック化をおこなったTecpr1ノックアウトマウスを作成し、赤痢菌易感染マウスモデル構築のための予備実験をおこなった。その結果、BALB/cコンジェニック化をおこなったTecpr1ノックアウトマウスを抗生物質処理することにより、赤痢菌の感染モデルを構築することに成功した。赤痢菌を経口感染後、Tecpr1ノックアウトマウスは体重減少、下痢、盲腸の病変が認められたのに対し、野生型のマウスではこれらの症状を認めなかった。 赤痢菌の感染により誘導されるCaspase-4依存的な細胞死に対して、赤痢菌エフェクターOspCの抑制メカニズムの解明をおこなった結果、OspCがCaspase-4のサブユニットと相互作用することでその酵素活性を阻害していることが明らかになった。さらに、赤痢菌の感染により誘導されるパイロプトーシス様の細胞死はIL-1βやIL-18の分泌を伴うにもかかわらずCaspase-1には依存しないことが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
赤痢菌選択的なオートファジーにおけるTecpr1の機能解析においては、Tecpr1が細胞内に侵入した赤痢菌をVirG-Atg5-Tecpr1-WIPI-2-PI3Pからなる新規カーゴレセプターにより認識するという新たな認識機構の存在を明らかにすることができた。さらに、Tecpr1はサルモネラ菌やA群連鎖球菌など他の病原細菌、傷害を受けたミトコンドリア、アグリソームを選択的に標的とするオートファゴソームなど、選択的オートファジーにおいて広く一般的に関与していることを明らかにすることができた。これらの成果は、Cell Host Microbe誌に報告した。 さらに、Tecpr1ノックアウトマウスを用いた赤痢菌易感染モデル構築では、Tecpr1ノックアウトマウスとC57BL/6またはBALB/cマウスとのバッククロスを10代おこない、予備実験ながら赤痢菌の経口感染で下痢を誘発できるマウスモデルの構築に目途がついた。また、理研マウスクリニックとの共同研究による表現型解析のためのマウスの寄託作業も順調に進み、表現型解析に用いるマウスの繁殖を現在おこなっている。 赤痢菌の感染により誘導されるCaspase-4依存的な細胞死に対するOspCの抑制メカニズムの解明では、そのメカニズムの一端を明らかにすることができ、免疫細胞以外の細胞でもパイロプトーシスが起きることを見い出した。さらに、上皮細胞でのパイロプトーシスは免疫細胞でのそれとは異なり、Caspase-1には依存しないことも明らかになっている。 これらの成果は、本研究計画を立案した当時の予想を大幅に上回るものであると考えている。
Tecpr1の機能解析においては、赤痢菌以外の病原菌を認識する選択的オートファジーや、ミトコンドリア、アグリソームを選択的に認識するオートファジーにおけるTecpr1の機能解析を計画している。さらに、アミノ酸飢餓機より誘導されるような標的の認識が選択的ではないカノニカルなオートファジーにおけるTecpr1の機能に関しても、さらに詳細に解析を進める予定である。また、C57BL/6またはBALB/cコンジェニック化をおこなったTecpr1ノックアウトマウスの表現型解析を共同研究により進めている。 Tecpr1ノックアウトマウスを用いた赤痢菌易感染モデル構築では、予備実験のデータをふまえ、赤痢菌の経口感染で下痢を誘発できるマウスモデルの構築に向けた感染実験を繰り返しおこない、その再現性を確認すると共に、感染実験系をさらにブラッシュアップする予定である。また、野生型マウスとTecpr1ノックアウトマウスとで腸内フローラ構成に関して、今度解析を進める予定である。 赤痢菌の感染により誘導されるCaspase-4依存的な細胞死に対するOspCの抑制メカニズムの解明では、現在パイロプトーシスが観察されているHaCaT細胞だけではなく他の上皮細胞を用いて現象の一般化を図ると共に、その阻害機構を詳細に検討し、学術論文に投稿する予定である。
本研究では蛍光免疫染色、電子顕微鏡、ウェスタンブロッティング、siRNAを用いたノックダウン実験、培養細胞を用いた発現実験、ノックアウトマウスを用いた感染実験をおこなう予定だが、免疫染色およびウェスタンブロッティングに用いる抗体、細胞培養用培地、トランスフェクション試薬購入費、ノックダウン用のsiRNA購入費、各種阻害剤購入費、実験動物購入費、プラスチック消耗品費が必要である。これらにオートファジー国際会議(沖縄)、連鎖球菌学会(大阪)などの旅費、研究成果投稿料が必要である。
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