研究課題/領域番号 |
23790474
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
児玉 年央 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (20346133)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Vibrio parahaemolyticus / T3SS / effector / enterotoxicity |
研究概要 |
腸炎ビブリオは主要な食中毒原因菌であるが、その下痢誘導機構については不明な点が多い。申請者はこれまでにウサギ腸管結紮ループ試験を用いて、小染色体上にコードされる3型分泌装置(T3SS2)が、本菌の下痢原性に必須であることを明らかにしてきた。しかしながら、T3SS2の分泌タンパク質の質的および量的分泌制御機構についてはまったく不明である。申請者はT3SS2の機能解析を行う過程で、遺伝子欠損によりエフェクターの分泌量が劇的に増大する一方で、transloconの分泌量が減少する表現形(T3SS2 switch phenotype)を示す機能未知のORF(T3SS2 switch molecule)を同定した。T3SSが分泌タンパク質の質や量(分泌のタイミング)を厳密に制御していると仮定すると、このORFがエフェクターを効率的に宿主細胞に注入するためのT3SS分泌スイッチとして機能している可能性が考えられた。そこで本研究ではこの機能未知のORFの機能解析することによって本菌のT3SS2分泌機構の詳細を明らかにすることを目的とした。 本年度の実績として、T3SS2の病原性を評価する新たな実験系として幼若ウサギを用いた感染モデルを構築した。さらにT3SS2の下痢原性に必須である新規エフェクター、VopVを同定し、機能解析した。また、T3SS2の質的、量的な分泌を制御する遺伝子の機能解析を行うためにいくつかの5種類のT3SS2エフェクターに対する抗体およびのT3SS2 switch phenotypeに寄与するORFに対する抗体の作製に成功した。T3SS2 switch phenotypeが遺伝子発現の変化によって生じる可能性が考えられたので、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで腸炎ビブリオの下痢原性(病原性)を評価するためにウサギ腸管結紮ループ試験を用いてきた。この系は下痢原性を評価するには有用であったが、腸管への定着性を評価することができなかった。本研究ではまず、ウサギ腸管結紮ループ試験の短所を克服する系として幼若ウサギを用いた感染モデルを構築し、T3SS2の病原性評価(定着性)に有用であることを報告した(PLoS pathogens, 2011)。また、T3SS2依存的な下痢原性に寄与する新規エフェクター、VopVを同定し、VopVがF-アクチンと結合し、この活性を介して下痢を誘導していることを報告した(Cell Host Microbe, 2011)。 このようにT3SS2が本菌の下痢原性に極めて重要であることが考えられたが、この分泌を制御する因子(T3SS2 switch molecule)を同定し、機能解析を行うことを試みた。機能解析を行う上で必要となるT3SS2エフェクターに対する抗体を5種類、およびT3SS2 switch moleculeに対する抗体の作製に成功した。また、このT3SS2 switch phenotypeが、遺伝子発現の変化によって生じる可能性が考えられたので、DNAマイクロアレイを用いたT3SS2 switch molecule欠損株の遺伝子発現解析を行った。しかしながら、遺伝し欠損によって顕著に発現量に差のある遺伝子は見つからず、この表現形が遺伝子発現の変化によるものではないことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
(T3SS2 switch moleculeの局在解析) 23年度に得られたT3SS2 switch moleculeに対する抗体を用いて、T3SS2 switch moleculeの局在(菌体内 or 菌体外)をウエスタンブロッティングによって解析する。この解析は、当初23年度に行う予定であったが、幼若ウサギを用いた感染モデルを構築や下痢原性に寄与する新規エフェクターVopVの機能解析といった当初の計画にないが本研究を進めるに当たり必要な知見を得るための解析を行う必要が生じたため、本年度に行うこととなった。(抗体を用いたT3SS2 switch phenotypeの検証) 23年度に得られたT3SS2エフェクターに対する抗体を用いてT3SS2 switch phenotypeを確認する。コントロールとしてすでに当研究室にあるT3SS1関連分泌タンパク質についても検討を行い、T3SS1とT3SS2との関連性について検討する。さらにDNAマイクロアレイ解析結果と照らし合わせて機能を推測する。(T3SS2 switch moleculeと相互作用する分子の同定) これまで得られた情報(局在など)から、T3SS2 switch moleculeと相互作用する分子を同定する。(T3SS2 switch molecule との相互作用とT3SS switch phenotypeとの関連性についての解析) error-prone PCRを用いて、T3SS2 switch moleculeのランダム変異体を作製し、bacterial two-hybrid systemを用いて、相互作用部位を決定する。さらにこの変異が腸炎ビブリオのT3SS switch phenotypeに与える影響について解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
幼若ウサギを用いた感染モデルの構築や下痢原性に寄与する新規エフェクターVopVの機能解析といった当初の計画にないが、本研究を進めるに当たり必要な知見を得るための解析を行ったため、当初23年度に執行する予定であったT3SS2 switch moleculeの局在解析を該当年度に行えず、次年度に行うこととなった。そのため、23年度の研究費に未使用額が生じたが、研究計画に大きな変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく予定である。
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