研究課題
V. alginolyticusのコラゲナーゼ発現誘導に関るタンパク質を同定するため、トランスポゾン変異法により染色体上の遺伝子をランダムに破壊し、コラゲナーゼ産生能を欠損した変異株を選択した。約7,000株の変異株を調べた結果、type II secretion system(T2SS)の構成タンパク質をコードするpulJ遺伝子にトランスポゾンが挿入された変異株V121が得られた。T2SSはコラゲナーゼの分泌にも関ることが予想されため、詳細な解析を行った。 V121株中のコラゲナーゼの発現量をRT-PCR法により調べた結果、その発現誘導能を欠損していた。このことから、V121株のコラゲナーゼ産生能欠損の原因は、単にその細胞外への分泌経路であるT2SSを欠損したためだけでなく、その発現誘導に関る因子の分泌も欠損しているためであることが分かった。 これまでにコラゲナーゼの発現誘導物質はコラーゲンの分解ペプチドであることが予想されていたことから、コラゲナーゼが自身の発現誘導ペプチドの形成に関わると予想された。そこで、部位特異的変異法によりコラゲナーゼの活性中心のアミノ酸配列を変化させ、コラーゲン分解能を欠損した変異株V205を作製した。得られたV205株のコラゲナーゼ発現誘導能を調べた結果、予想に反し発現が誘導されたことから、コラゲナーゼは自身の発現誘導に必須ではないと考えられた。 そこでゼラチナーゼについて検討した。V205株が産生するゼラチナーゼを部分精製し、ゼラチンを含むT2SS変異株V121の培養液に加えたところ、コラゲナーゼの発現が誘導された。このゼラチナーゼをタンデムマス法で解析したところ、2種類のセリンプロテアーゼに一致するペプチドが検出された。以上より、T2SSから分泌されるプロテアーゼによるゼラチン分解産物がコラゲナーゼの発現誘導ペプチドであると考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
V. alginolyticusのコラーゲン・センサーを同定するために、コラーゲンやゼラチンによって誘導されるコラゲナーゼ遺伝子の発現を、コロニーの色が青色に変化することで判別できるコラーゲン・センサー株の構築を試みた。しかし、構築したコラーゲン・センサー株は、コラーゲンやゼラチンを含まない培地上でも青色を呈した。これは、V. alginolyticusがコラーゲンやゼラチンを含まない培地中でもコラゲナーゼ遺伝子を僅かに産生していることが原因であると考えられる。そこで、次にコラゲナーゼ発現誘導能と遊走能の相関を利用したスクリーニング法で、コラーゲン・センサーの同定を試みた。トランスポゾン変異法によりV. alginolyticusの染色体上の遺伝子をランダムに破壊して得られた変異株について、初めにスクリーニングしやすい遊走能を評価し、得られた遊走能欠損変異株についてコラゲナーゼの産生能を評価する方法で、コラゲナーゼ産生能を欠損した変異株を分離した。得られた変異株中のトランスポゾン挿入部位を同定することによって、V. alginolyticusのコラゲナーゼ発現誘導機構のうち、誘導物質とその生成機構が明らかになりつつある。 トランスポゾン変異法を用いたスクリーニング法がV. alginolyticusにおいても機能することが分かったため、コラゲナーゼ産生能を欠損した株の新たなスクリーニング法を開発した。この方法は、コラーゲン・ザイモグラフィー法を応用してコラーゲン繊維を形成させたマイクロウェルプレート上で変異株を培養した後に、そのコラーゲン繊維の分解を判定することでコラゲナーゼ産生能の有無を判定する方法である。したがって、これまでの方法と比較して、一度により多くのトランスポゾン挿入変異株のコラゲナーゼ産生誘導能を、より簡便にスクリーニングすることが可能となった。
これまでの研究でコラゲナーゼの発現誘導物質であると考えられたコラーゲンやゼラチンの分解産物生成に関ることが示唆された2種類のセリンプロテアーゼをコードする遺伝子を破壊した変異株を作成する。得られた変異株中のコラゲナーゼの発現誘導能を評価することにより、コラゲナーゼの発現誘導物質の生成機構を明らかにする。 V. alginolyticusのコラーゲンおよびゼラチンの分解産物を認識しコラゲナーゼの発現誘導を制御しているコラーゲン・センサーを同定する。そのために、コラーゲン・ザイモグラフィー法を応用した新たなスクリーニング法を開発した。本法はコラゲナーゼ活性の有無を特異的に検出することが可能である。また、マイクロプレートを用いたスクリーニング法であるため一度に多数の菌株のコラゲナーゼ産生能を調べることができる。このマイクロプレートを用いて、トランスポゾン変異法を用いて染色体上の遺伝子を無作為に破壊した変異株を培養し、コラゲナーゼ産生能を欠損した変異株を分離する。得られた変異株中のトランスポゾン挿入部位を同定することにより、コラーゲン・センサーを同定する。コラーゲン・センサーの同定により、V. alginolyticusのコラゲナーゼ発現誘導機構の全容を明らかにする。また、コラゲナーゼ遺伝子の発現の温度による調節機構も明らかにする。さらに、同定したコラーゲン・センサーのコラーゲンを認識する部位のマトリックス・アンカーとしての利用の可能性を検討する。
本研究は、遺伝子組換えやタンパク質工学等の多数の分子生物学手法を利用して実施されるため、それらにかかる経費が大部分を占めている。 コラゲナーゼ発現誘導機構のうち、セリンプロテアーゼによる誘導基質生成機構を明らかにするために2種類のセリンプロテアーゼ遺伝子を破壊した変異株を作製する。そのために遺伝子組換え用試薬(合成プライマーやPCR用試薬等)が必要である。さらに、構築した遺伝子破壊株中のコラゲナーゼ遺伝子の発現誘導を調べるため、合成プライマーやRT-PCR用試薬が必要である。 コラーゲン・センサーを同定することを目標に、新規に開発したスクリーニング法を用いて多数のトランスポゾン挿入変異株をスクリーニングし、コラゲナーゼ産生能欠損株を分離する。スクリーニングを実施するために必要な消耗品やコラーゲン溶液などが必要である。得られたコラゲナーゼ産生能欠損変異株中のトランスポゾン挿入部位を決定するために、遺伝子クローニングのための遺伝子組換え用試薬やシークエンシング用試薬が必要である。スクリーニングにより得られた候補遺伝子がコラーゲン・センサーをコードしているのか確定するために遺伝子破壊株作製を作成する。そのための遺伝子組換え用試薬(合成プライマーやPCR用試薬等)が必要である。構築した遺伝子破壊株中のコラゲナーゼ遺伝子の発現誘導を調べるため、合成プライマーやRT-PCR用試薬が必要である。構築した遺伝子破壊株のコラゲナーゼ産生誘導能を調べるために、コラゲナーゼアッセイ用試薬が必要である。 これまでの研究成果を発表するために、学会発表にかかる経費を計上している。
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