他のグループからの報告により,BtcAはBopCを菌体内で安定させるシャペロンとしてはたらくことが示唆された。我々はBtcAが菌体内にとどまらずに,III型分泌装置から分泌されることを見出し,BtcAがBopCのネクローシス誘導活性を補助する機能をもっているという仮説を立てた。BopCをコードする遺伝子を哺乳類細胞内発現用ベクターにクローニングし,そのプラスミドをHeLa細胞などの培養細胞内に導入し,BopCの産生を誘導した。その結果,HeLa細胞にネクローシスが誘導され,細胞膜破壊にともなってラクトースデヒドロゲナーゼの培地への遊離が認められた。もしBtcAがBopCのネクローシス活性を補助する作用をもっているなら,BopCとBtcAを同時にHeLa細胞に産生させた場合,BopCを単独で産生させた場合よりも,培地中へ遊離するラクトースデヒドロゲナーゼの量が多くなると考えられる。BopCとBtcAを同時にHeLa細胞に産生させたところ,ラクトースデヒドロゲナーゼの遊離量はBopCのみを産生させた場合と有意な差が認められなかった。この結果より,BtcAはBopCのネクローシス誘導活性を補助するのではなく,他の未知の機能をもっていることが示唆された。 BopCに依存した宿主応答の詳細を明らかにするために,気管支敗血症菌の野生株を感染させた上皮細胞の形態変化をタイムラプス撮影が可能な顕微鏡システムをもちいて解析した。以前までは感染細胞を固定した後に,BopC依存的な細胞の収縮および剥離が観察されたが,経時的に観察した結果,感染した細胞は剥離する前に一旦収縮し,その後に細胞は伸展し,そしてblebとよばれる水疱を突出させた後に剥離することがわかった。現在,その形態変化に重要な因子を同定している段階である。
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