研究課題/領域番号 |
23790488
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
清水 隆 山口大学, 獣医学部, 准教授 (40320155)
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キーワード | マイコプラズマ肺炎 / マイコプラズマ / Toll-like receptor / 自然免疫 / リポプロテイン / 肺炎 |
研究概要 |
Mycoplasma pneumoniaeは人に肺炎を惹起する細菌であり、これまでの我々の研究においてM. pneumoniaeのリポプロテインがToll-like receptor 2 (TLR2)を介して肺に炎症を誘導することを報告してきた。しかしながら、本研究においてTLR2 KOマウスにおいても炎症が惹起されることを見出したため、詳細な解析を行った。 TLR2 KOマウスの腹腔マクロファージにM. pneumoniaeを感染させると、TNF-alphaをはじめとする炎症性サイトカインの発現がWTマウスと比べ増強した。熱処理や音波処理で不活化した菌体ではTLR2 KOマクロファージにおいて症性サイトカインの誘導はみられなかった。TLRのアダプタータンパク質であるMyD88 KOマウスにおいては炎症性サイトカインの誘導が見られなかった。TLR4阻害ペプチド存在下やTLR2とTLR4のダブルKOマウスにおいて炎症性サイトカインの誘導が減弱された。TLR2 KOマクロファージにおいて、ファゴソームの酸性化阻害剤、Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)の阻害剤およびMitogen-activated Protein Kinase (MAPK)のJNK阻害剤存在下で炎症性サイトカインの誘導が阻害された。同様の傾向がマウスの肺感染モデルにおいても観察された。 以上のことからM. pneumoniaeの炎症誘導には、1. TLR2非依存的な炎症誘導が存在する、2. TLR4が重要なレセプターである、3. PI3K依存的なエンドサイトーシスが関与している、4. JNK経由のMAPKが重要である、5. M. pneumoniaeの何らかの生体反応が必須である、ことが明らかとなった。 マイコプラズマはLPSを有しておらず、TLR4のリガンド同定が今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
M. pneumoniaeは人に肺炎を惹起する細菌であり、これまではTLR2が重要なレセプターであると考えられてきた。本研究においてTLR2 KOマウスにおいても 炎症が惹起されることが明らかとなったため、今年度はTLR2にかわる新しいレセプターの同定を目的としていた。これまでに報告のない新規のレセプターの同定には至らなかったが、TLR4が重要なレセプターであることが明らかとなった。 マイコプラズマはペプチドグリカンや外膜を持たないことが大きな特徴である細菌であり、TLR4のリガンドであるLPSを有していない。また、TLR4を介した炎症誘導にはM. pneumoniaeの何らかの生体反応が重要であることが示唆された。これらのことから、これまでに報告のない新しいリガンドがTLR4を介して炎症を誘導している可能性が高く、来年度はリガンドの同定を目標としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって、M. pneumoniaeのTLR2非依存的炎症誘導においてTLR4が重要なレセプターであることが明らかとなった。マイコプラズマはペプチドグリカンや外膜を持たない細菌であり、TLR4のリガンドであるLPSを有していない。これらのことからこれまでに報告のない新しいリガンドがTLR4を介して炎症を誘導している可能性が高く、今後はリガンドの同定を目標としたい。 リガンドの同定のためにM. pneumoniaeの菌体成分を界面活性剤処理やHPLCにより分画し、TLR2 KOマクロファージにおいて炎症性サイトカインを誘導する分画を同定し、構成成分をマス解析などで同定する。さらに、TLR2 KOマクロファージに炎症性サイトカインを誘導できない変異体をトランスポゾンを用いて作製し、その変異箇所を同定する。また、TLR2非依存的炎症誘導にはM. pneumonieの何らかの生体反応が関与している可能性が高いため、M. pneumoniaeの分泌装置や分泌タンパク質を解析する。 不活化したM. pneumoniaeはTLR2 KOマクロファージにおいて炎症性サイトカインを誘導しない。また、TLR2非依存的炎症誘導にはPI3Kを介したエンドサイトーシスが重要な役割を担っていることが示唆された。これらのことから生菌と不活化菌においてマクロファージによる貪食後の挙動に違いがあることが考えられる。この違いを明らかとするために、GFP発現M. pneumoniaeをWTおよびTLR2 KOマクロファージに感染させ、細胞内での生存、細胞内消化などを比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. トランスポゾンよる変異株の取得と、その変異挿入部位の解析を行う。そのための遺伝子取り扱い試薬、培地、ELISAキット等の消耗品を購入予定である。 2. マイコプラズマの菌体成分を分離・精製するためのカラムや試薬を購入予定である。 3. TLR2 KOマウスとWTのマクロファージにおけるM. pneumoniaeの取り込み、細胞内侵入、細胞内消化などをGFP発現M. pneumoniaeを 用いて比較する。この計画のため、顕微鏡関連試薬、抗体などの消耗品を購入予定である。
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