研究課題/領域番号 |
23790496
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
本田 知之 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (80402676)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | モービリウイルス / 封入体 / 宿主-ウイルス間相互作用 |
研究概要 |
モービリウイルスはマイナス鎖の一本鎖RNAをゲノムにもつRNAウイルスである。モービリウイルス属のウイルスは、元来感染力が強く、致死率も高い重篤な病気を引き起こすため、そのウイルスの増殖メカニズムを明らかにすることは重要である。モービリウイルスではゲノムRNAにNが結合し、RNAポリメラーゼ複合体であるP、Lと協調して細胞質で複製・転写を行なっている。一方、他のRNAウイルスにはあまりないモービリウイルスの特徴は、Nが核内に移行して核内封入体を形成することである。このことは、モービリウイルスが他のRNAウイルスにはない新規のRNAウイルス-宿主間相互作用を持つ可能性を示唆している。本研究では、Nタンパク質に着目し、新規のモービリウイルス-宿主間相互作用を同定しその分子機序を解明することを目的としている。本年度の研究において、モービリウイルス-宿主間相互作用について以下の結果を得た。1)Nタンパク質のリン酸化部位を破壊した変異体では、ウイルスのポリメラーゼ活性が低下することを明らかにした。2)封入体でのNタンパク質、Pタンパク質の挙動をFRAP(Fluorescence recovery after photobleaching)法を用いて解析した。封入体では、Nタンパク質の方がPタンパク質よりも局在時間が長かった。3)リン酸化Nタンパク質に対する抗体を作製した。4)リンパ球由来細胞(B95a細胞)や腎臓由来細胞(Vero細胞)、肺由来細胞(A549細胞)にモービリウイルスが持続感染した細胞を樹立した。5)持続感染を成立させる過程で、モービリウイルスに蓄積する変異を複数同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画では、2つの小課題を提案していた。 1つは、モービリウイルスのポリメラーゼ活性を変化させる薬剤や処理のスクリーニングとNタンパク質との関連である。本年度の結果により、Nタンパク質のリン酸化がポリメラーゼ活性に重要であることが明らかになり、さらにその修飾特異的な抗体という研究ツールの開発にも成功した。以上のことより本小課題は計画通り進展していると考えられた。 もう一つは、封入体を変化させる薬剤や処理のスクリーニングである。モービリウイルスの核内封入体は一般的に感染した個体で報告されるが、培養細胞系では持続感染した時に認められるという報告がある。そのため、この課題を達成するには、封入体を持ったモービリウイルス持続感染細胞が必要となる。本年度は、様々なウイルス株と培養細胞株の組み合わせをスクリーニングし、そのような持続感染細胞の樹立に成功した。またその細胞を樹立する過程で、どのような変異がウイルスに蓄積するのかについて検討し、複数の持続感染しているウイルスで共通して蓄積する変異を見出した。一方で、封入体におけるウイルスタンパク質の詳細な挙動を新しい手法を用いて明らかにした。このことは、今後展開する予定の封入体の生物学において基礎となる知見であり、必須である。以上のことより、本小課題についてもおおむね順調に進展していると判断した。 全体として、当初の計画より若干の変更点はあるが、大きな方向性に変化はなく、2つの小課題達成に向けて順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果をもとにして、新しいモービリウイルス-宿主間相互作用の作業仮説をたて、検証する。具体的には、モービリウイルスのポリメラーゼ活性に影響を与える新しい機構を明らかにすることと、モービリウイルス封入体で起こる新しい宿主との相互作用を明らかにすることの2つの小課題について進める。また本年度新しく発見した持続感染成立過程で蓄積するウイルスゲノムの変異について解析を進めることで、モービリウイルス-宿主間相互作用の別の側面を明らかにすることも試みる。1)モービリウイルスポリメラーゼ活性の新しい制御機構:Nタンパク質のリン酸化を中心に、他の修飾(例えば、SUMO化やユビキチン化)などが生じていないか検討する。それらの修飾の相互作用および、修飾酵素の同定を行うことで、新しいウイルス-宿主間相互作用を見出す。その修飾酵素のノックダウン細胞やノックアウト動物を用いることで、見出した相互作用が個体レベルでも実証出来るか検討する。2)封入体での新しい相互作用の検討:封入体をもった持続感染細胞を用いて、封入体の量や形を変化させる薬剤のスクリーニングを行う。そのような薬剤処理により封入体に影響を与える宿主因子を、Nタンパク質との結合を指標にスクリーニングする。得られた結果をもとに、作業仮説をたて、その宿主因子のノックダウン細胞やノックアウト動物を用いて個体レベルでの作業仮説の妥当性を評価する。3)持続感染に必要なウイルス-宿主間相互作用の解析:平成23年度に得られた持続感染ウイルスに蓄積する変異の機能解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は主に一般的な分子生物学的技法と細胞培養技術、マウス飼育からなるため、研究費の多くは消耗品(物品費)として900,000円を割り当てた。この物品費により、上述の研究の大部分を推進する予定である。設備備品に関しては、現在使用している機器を用いて研究を進められると判断した。国内旅費としては、日本ウイルス学会および日本分子生物学会への参加、東京大学医科学研究所の甲斐千恵子先生との共同研究を計画している。よって、それらの学会への参加および研究打ち合わせのための旅費を200,000円割り当てた。日常的に行う各種資料の印刷費、および得られた成果を論文として発表するための校閲料、学会誌投稿料として人件費・謝金と合わせて200,000円を割り当てた。 以上は現段階での予定であるが、実際の研究の進捗により物品費が増大することや、共同研究の必要性の変化により東京大学医科学研究所への旅費が増大することは十分考えられる。その都度、研究費を適正に再配分することで対処する予定である。 なお、平成23年度の研究費の平成24年度への繰越はない。
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