研究概要 |
HIV-1感染病態を再現できる新たな動物モデルを確立するために、重度免疫不全マウスであるNOGマウスにヒトCD34陽性造血幹細胞を移植し、ヒト造血能を1年以上維持できる"ヒト化マウス"を作出した。ヒト化マウスはHIV-1増殖を30週以上維持し、血中CD4T細胞の漸進的減少に代表されるHIV-1の感染病態を再現した。 HIV-1は、構造・機能タンパク質に加え、Vif, Vpu, Vpr, Nefという4つのタンパク質("ウイルス因子")をコードしている。これまでの研究から、VprはアポトーシスとG2期での細胞周期停止(G2 arrest)を惹起することが明らかとなっている。しかしながら、適切な動物モデルがなかったため、生体内のHIV-1増殖過程における"ウイルス因子"の役割については明らかとなっていなかった。 生体内HIV-1増殖におけるVprの役割を解明することを目的として、Vpr欠損HIV-1と野生型HIV-1(JR-CSF株)をそれぞれヒト化マウスに接種した。Vpr欠損HIV-1の増殖効率は、野生型HIV-1に比して有意に低かった。また、急性期(感染後1-3週齢)の野生型HIV-1感染マウスでは、Tregにおける効率的なウイルス増殖とTregの枯渇が観察されたのに対し、Vpr欠損HIV-1感染マウスではそれらが観察されなかった。これらの事象は、顕著なアポトーシスとG2 arrestが野生型HIV-1感染Tregでは誘導されるのに対し、Vpr欠損HIV-1感染Tregではそれらが誘導されないことに起因していると考えられた。以上の結果から、急性期において、HIV-1はTregを効率的な自己増幅の場として利用していること、そして、VprによってTregの枯渇と免疫活性化が惹起されることが示唆された(Sato et al., manuscript in revision)。
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