研究課題/領域番号 |
23790501
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷口 一郎 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (00467432)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | HIV-1 / Revタンパク質 / RNA核外輸送 / RNP / スプライシング |
研究概要 |
核内で転写・スプライシングされるHIV-1の4kb-RNAの細胞質への輸送は、ウイルスタンパク質Revを介したCRM1経路で行われる。しかし、それとは異なるTAP経路も利用される可能性が考えられ、TAP経路も利用されるのか、あるいはTAP経路は抑制されるのかは不明であった。これまで申請者らは、Revが4kb-RNAの核外輸送においてTAP経路の利用を抑制することを示唆する結果を得ていた。本研究では「4kb-RNAの核外輸送においてRevがどのようにTAP経路の利用を抑制するのか」を明らかにすることを目的とする。平成23年度、ウイルス由来の4kb-RNA上へのTAPのリクルートを調べた目的で、HIV-1由来のDNAプラスミドをヒト培養細胞のHEK293Tにトランスフェクションし、4kb-RNAを模擬するRNAを発現させた。その細胞ライセートを用いてGSTタグを付加したTAPでプルダウンを行い、共沈降するRNAをRT-PCRによって解析した。その結果、TAPのウイルスRNA上へのリクルートがRevの発現によって抑制されることを見出した。さらに、TAPとRNAとのアダプタータンパク質であるALYのRNA上へのリクルートを調べる目的で、上述の細胞ライセートを用いてALYに対する抗体で免疫沈降実験を行った。その結果、ALYのウイルスRNA上へのリクルートもRevによって阻害された。ここまでの成果を国際学会で口頭発表を行った(RNA2011 16th annual meeting of the RNA Society)。また、本研究課題と関連して、mRNA にU snRNA輸送因子がリクルートされない分子機構を明らかにしたので、論文報告した(Science. 2012 Mar 30;335(6076):1643-6)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の目的は、「HIV-1の4kb-RNAの核外輸送においてRevがどのようにTAP経路の利用を抑制するのか」であった。上述の通りHIV-1を発現する培養細胞を用いた結果、RevがTAPのウイルスRNA上へのリクルートを阻害することを示すことができ、おおむね計画通りに研究が進んだと言える。本研究課題の目的を一般化すれば、複数の輸送経路で核外輸送されうるRNAは、どのような機構でひとつの輸送経路に規定されるのか、ということである。この解析には、CRM1経路とTAP経路のふたつの輸送経路が同時に誘導されうるHIV-1の4kb-RNAが適している。したがって、本研究課題ではHIV-1の4kb-RNAの核外輸送に焦点を絞って解析を進めてきた。しかし、複数の輸送経路が誘導されうるRNAは、HIV-1の4kb-RNAに限らず、一般的なmRNAについても当てはまる。mRNAは、その5’末端のキャップ構造にCBCが結合し、CBCがmRNA輸送因子をリクルートする。一方、別種のU snRNAにもキャップ構造があり、CBCが結合する。U snRNAの場合は、CBCがU snRNA輸送因子をリクルートする。つまり、mRNAにはU snRNA輸送因子もリクルートされうる。しかし申請者らは以前、mRNAにはU snRNA輸送因子はリクルートされないことを示した。ただしその分子機構は不明であったため、本研究課題で得られた知見や利用した手法も応用して解析を進めた。その結果、「RNA結合タンパク質hnRNP CがmRNAとU snRNAとを長さに従って識別し、mRNAに特異的に結合して、U snRNA輸送因子のリクルートを阻害する」ことを発見した。この成果はScience誌に発表することができ、本研究課題と関連するテーマに新たな知見を与えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までは計画通りに研究が進んでいる。平成24年度では、計画していた「RevがTAPのHIV-1の4kb-RNA上へのリクルートを阻害する分子機構」を明らかにする。そのために、上述の通りALYの4kb-RNA上へのリクルートが阻害されていることから、RevによるALYリクルートの阻害機構について調べる。ALYのRNA上へのリクルートには重要な因子が存在する。ひとつはRNAヘリカーゼであるUAP56であり、もうひとつはRNAの5’端のキャップ構造に結合するCBCである。ALYがこれらと相互作用することが、RNA上へのリクルートに重要であることが知られているため、Revがこれらの相互作用を阻害するかを調べる。具体的には、CBC、UAP56、およびGSTタグの付加したALYをそれぞれ大腸菌で発現させ、精製する。まず、GST-ALYによってCBCやUAP56がプルダウンされる、つまりALYとCBCやUAP56とが結合することを確認する。次に、大腸菌で発現させ、精製したRevを用意し、Rev存在下でGST-ALYによってCBCやUAP56がプルダウンされなくなる、つまりRevがALYとCBCとの結合、ALYとUAP56との結合を阻害するかを調べる。以上の競合実験を示すことができれば次に、RevはALY、UAP56、CBCのどれに結合するかを調べる。以上のことを検証した後、これまでの成果を論文発表する予定である。当初は本研究課題では目的としていなかったが、新たな疑問として生じてきたのが、なぜRevは4kb-RNAの輸送においてTAP経路の利用を抑制するのかということである。この疑問に答えるため、ウイルスRNAの核外輸送を強制的にTAP経路にしたとき、ウイルスの増殖にとってどのような問題が生じるのかを観察していくことを検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
組換えタンパク質を精製するため、タンパク質発現ベクター作製のための試薬類、大腸菌培養のための培地類、精製のための試薬およびカラムを購入する。タンパク質-タンパク質間の相互作用を解析するため、グルタチオンセファロース、電気泳動用の試薬や泳動槽、抗体やウェスタンブロッティング試薬、X線フィルムを購入する。ウイルスの増殖を解析するため、細胞培養のための培地類、プラスティック製品、ウイルスタンパク質を認識する抗体、ウイルスRNA検出のためのプライマー、逆転写酵素類、PCR試薬、ラジオアイソトープ、ノザンブロッティング試薬等を購入予定である。必要に応じて核外輸送因子やウイルスタンパク質を認識する抗体の作製も行う。また、情報収集のための旅費、成果発表のための旅費、学会参加費、論文発表のための英文校閲および投稿費を予定している。
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