研究課題/領域番号 |
23790503
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森田 英嗣 大阪大学, 微生物病研究所, 特任准教授 (70344653)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ウイルス |
研究概要 |
申請者はこれまでに、ロタウイルスあるいは、HEVの構造蛋白質を全て培養細胞で発現させると、細胞障害を伴わず、ウイルス様粒子(VLP)が大量に産生されることを見いだした。この結果は、非エンベロープウイルスは、従来想定されていた細胞膜を破壊して細胞外出るわけではなく、何らかの膜形態変化を伴う細胞側の機構により能動的に細胞外へ放出されていることを示している。次に、ロタウイルスを材料に用い、VLPの放出が細胞質画分を生体膜で隔離する働きがあるオートファジー経路を介しているかどうか、種々のドミナントネガティブ変異体を用いて解析を行った。その結果、ATG(Autophagy)遺伝子の一つであるULK1の優勢変異体発現によってVLPの放出が著しく抑制されることがわかった。これは、オートファジー機構が非エンベロープウイルスVLP放出に何らかの役割を持っている可能性を示している。現在、申請者らは種々のATGノックアウトマウス由来繊維芽細胞より、ノックアウト細胞株を樹立し、種々の非エンベロープウイルスをin vitroにて感染させ、ウイルスの増殖能を調べている。これまでの解析から、Beclin 欠損細胞では野生型細胞と比較すると、コクサッキーウイルスの増殖に大きな変化があること見いだしている。さらに、申請者らは免疫蛍光顕微鏡観察および、免疫電子顕微鏡観察により、細胞内小胞体(Endoplasmic Reticulum: ER) 近傍にウイルス抗原陽性の新規構造体が形成されることを見いだした。また、我々はウイルス陽性細胞内構造体にはオートファゴソームマーカーの一つであるLC3と局在することも確認した。近年、オートファゴソーム膜はERに由来するといわれ、この結果は、ウイルス隔離膜がオートファゴソーム類似膜である可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々の細胞内メンブレントラフィック、特にオートファジー機構に関与する優勢変異体発現の影響を調べる実験は修了し、ポジティブな結果を得ている。また、蛍光顕微鏡および電子顕微鏡観察にてウイルス蛋白質陽性構造物がオートファゴソームマーカー陽性であることも見いだしている。現在、種々のATGノックアウトマウスより遺伝子欠損繊維芽細胞株を樹立し、これら細胞へのウイルス感染性及び増殖能を調べることで、詳細な分子機構の解明を目指している段階である。しかしながら、ウイルス蛋白質をベイトとした結合蛋白質の同定や、ウイルスの放出に必要なウイルス側アミノ酸配列の同定などは、まだ解析されておらず、今後、早急に取り組むべき課題といえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、オートファゴソームのウイルス粒子放出への関与を明確にする為に、種々のATGノックアウトマウスより、遺伝子欠損繊維芽細胞の樹立を行っており、今後これらの細胞株を用いてウイルスの増殖を詳細に調べ、ウイルス産生のどの段階でオートファジー機構が関与しているのか解析する予定である。現在、ATG3-/-、ATG5-/-、ATG7-/-、ATG14L-/-、ATG16L1-/-、Beclin-/-、FIP200-/-、Rubicon-/-ノックアウトマウスより遺伝子欠損繊維芽細胞を得ている。最近、オートファジー機構は宿主細胞の自然免疫機構の作用に直接関与している報告がなされている。従って、オートファジー機構が直接ウイルスの増殖に関与しているか否か証明するためには、自然免疫機構が作用しない条件下でのオートファジー機構の有無による影響を解析しなければならない。現在、申請者らは、自然免疫反応におけるウイルス二本鎖RNAの認識に関与するIPS-1遺伝子とATG16L1遺伝子のダブルノックアウトマウスより遺伝子欠損繊維芽細胞の樹立を行っている。今後これらの細胞にウイルスを感染させ、その増殖能等を調べる予定である。また、ウイルス因子に結合する宿主因子を同定する為に、感染細胞からウイルス構造蛋白質を精製し共精製物のマススペクトロメトリー法による同定を行う。また、結合因子を同定した後は、その結合の生化学的解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後、引き続きオートファジー機構とウイルス増殖との関係を調べる為に、遺伝子改変繊維芽細胞株の樹立とin vitro感染系を用いたウイルス増殖の分子機構を解析していく予定である。その為の培養用試薬等に研究費を使用する予定である。また、今後は、ウイルス蛋白質に結合する宿主因子の同定を目的としたプロテオミクス解析を中心に行う予定であり、これら解析に必要な実験消耗品の購入にも研究費を使用する。また、ウイルス粒子放出に必要なウイルス側のアミノ酸配列を同定するために、多くの点変異導入蛋白発現ベクターを作成する必要がある。その為にも、カスタムオリゴDNA合成や、分子生物学的解析に必要な消耗品の購入にも研究費を当てる予定である。
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