本研究では、パラミクソウイルス科のセンダイウイルスをモデルとし、エンベロープウイルスの出芽・粒子形成における細胞骨格系の関与について、その機能的詳細を明らかにすることを目的とした。本研究の端緒は、ウイルスの粒子形成・出芽の原動力となるマトリクス蛋白質の単独発現で、アクチン細胞骨格の再構成が誘導されるが、出芽・粒子形成に重要なアミノ酸に変異を導入した出芽欠損型マトリクス蛋白質ではこれが誘導されないことによる。これまでに、マトリクス蛋白質によって誘導されるアクチン細胞骨格の再構成に、Cdc42が関与している事を明らかにしているが、本年度は更に、マイクロアレイ等によりマトリクス蛋白質発現及びウイルス感染によって、Cdc42依存的なアクチン再構成系が動いていることを明らかにした。またこれが効率的なウイルスの出芽に重要であることを示した。 また、センダイウイルスでは、ウイルスの増殖に必須ではないアクセサリー蛋白質の一つであるC蛋白質が、宿主の膜切断を伴うイベント(エンドサイトーシス、小胞形成、細胞質分裂など)に関与するESCRT経路を出芽部位にリクルートし、出芽が効率化されているが、C蛋白質はこれ以外にも、ウイルスの自然免疫回避やウイルスRNA合成の制御などにも重要な役割を果たしていることが明らかにされている。 我々は、C蛋白質欠損組換えセンダイウイルスの復帰変異発現メカニズムを明らかにし、ウイルスの生活感においてC蛋白質がこれまでに考えられていた以上に重要な役割を果たしている可能性があることを報告した。 更に上記研究に派生し、もう一つのアクセサリー蛋白質であるV蛋白質が、自然免疫誘導を抑制する新規メカニズムや、C蛋白質によって調節されるモノネガウイルスの新規RNA合成メカニズムを明らかにした。
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