研究課題/領域番号 |
23790506
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
一戸 猛志 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10571820)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 麻疹ウイルス / 自然免疫 / NLRP3 / inflammasome / caspase-1 |
研究概要 |
インフラマゾームは、caspse-1を活性化させるための細胞内タンパク質複合体である。活性化caspase-1は、細胞内未成熟型IL-1betaやIL-18を切断して成熟化する。これまでの研究で、NLRP3インフラマゾームは、インフルエンザウイルス、EMCV、VSVなどいくつかのRNAウイルスを認識することが示されている。一方、VSVはNLRP3非依存的にRIG-Iインフラマゾームを活性化するという報告もある。本研究で我々は、麻疹ウイルスがヒト単核細胞THP-1からcaspase-1依存的にIL-1betaを誘導することを示した。siRNAを用いた遺伝子ノックダウンの実験から、麻疹ウイルス感染THP-1細胞は、RIG-IではなくNLRP3インフラマゾーム依存的にIL-1betaを誘導していることが明らかとなった。さらに麻疹ウイルスのVタンパク質を欠損させたウイルスは、野生型の麻疹ウイルスと比較して高いレベルのIL-1betaを誘導した。麻疹ウイルスのVタンパク質を恒常的に発現するTHP-1細胞は、NLRP3インフラマゾーム依存的なIL-1betaの誘導を有意に抑制した。さらに麻疹ウイルスVタンパク質はそのC末端ドメインで、NLRP3と相互作用していることが明らかとなった。これらのことから、麻疹ウイルスVタンパク質は、NLRP3と相互作用することによりNLRP3インフラマゾーム依存的なIL-1betaの分泌を抑制していることが示唆された。 NLRP3インフラマゾームの活性化は、ウイルス特異的な獲得免疫応答の誘導に必要である。麻疹ウイルス感染による一過性の免疫抑制は、麻疹ウイルスVタンパク質がNLRP3インフラマゾームの活性化を抑制していることと部分的に関係している可能性があり、効果的なワクチン開発や麻疹ウイルスの病原性発現機構の理解に役立つ可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
麻疹ウイルスとNLRP3 inflammasomeの関係については昨年12月に論文を発表した(Komune et al. J Virol. 2011 Dec;85(24):13019-26)。
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今後の研究の推進方策 |
麻疹ウイルスVタンパク質の他に、自然免疫系におけるインターフェロン経路を阻害するものとして、ウイルス非構造タンパク質のCタンパク質がある。またI型インターフェロンは、NLRP3インフラマゾームの活性化を抑制するという報告もあることから(Guarda et al. Immunity. 2011 Feb 25;34(2):213-23)、今後は麻疹ウイルスV, Cタンパク質によるインターフェロン経路阻害効果とNLRP3インフラマゾーム抑制効果との関連についても調べる。 EMCVによるNLRP3インフラマゾームの活性化機構に関しては、ウイルスRNAのトランスフェクションではNLRP3依存的なIL-1bの産生が認められないことが明らかとなった。ウイルスRNAはNLRP3インフラマゾームを活性化しなかったので、今後はウイルスタンパク質がNLRP3インフラマゾームの活性化に関係しているかを調べていく予定である。インフルエンザウイルスのM2タンパク質(H+チャネル)と同様、EMCVにはCa2+チャネルとして機能していると考えられている2Bタンパク質がある。この2Bタンパク質を細胞に発現させたときに、NLRP3インフラマゾーム依存的なIL-1bの産生が認められるかを観察する。2Bタンパク質がNLRP3インフラマゾームの活性化に関係していた場合、どのようなCa2+の動きがNLRP3インフラマゾームの活性化に必要かを調べる。細胞質中のCa2+濃度は、細胞外や小胞体、ゴルジ体の1/10000程度に低く保たれている。そこで細胞外からのCa2+流入が必要なのか、小胞体やゴルジからのCa2+流出が必要なのかを調べるため、培養液中にCa2+をキレーとするEGTA、または細胞質中でCa2+をキレートするBAPTA存在下での、EMCV感染によるNLRP3インフラマゾームの活性化を調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費1,600,000円のうち、物品費(消耗品)1,400,000円、旅費150,000円、その他(論文投稿料など)50,000円の予定である。
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