研究概要 |
23年度の研究により「RSV感染したヒト鼻粘膜上皮細胞においては、ウイルスdsRNAセンサーであるRIG-I依存的に、I型IFNとは異なるIII型IFNであるIFN-lambdaが優位に誘導される」ことを見出した。そこで、実際のRSV感染者鼻汁におけるIFN、サイトカイン量を測定した。札幌医科大学病院小児科に来院したRSV感染小児(n=65)から鼻汁を回収し、鼻汁中IFN量、IgA量をELISAにて測定した。鼻汁中IgA濃度を基準としたIFN-lambda1とIFN-beta産生量を比較したところ、両者の産生量に有意な差は認められなかった(IFN-lambda1:IFN-beta=0.45:0.48)。これらの鼻汁中に肺炎レンサ球菌の混在とIL-8, RANTESの産生を確認し、RSV患者の病態に、細菌の混合感染、炎症性ケモカインの誘導が関連していることを確認した。 そこで、hTERT遺伝子導入したヒト正常鼻粘膜上皮細胞、肺胞上皮細胞を用いたRSV感染細胞培養系を用いて、これらの炎症性ケモカイン、細菌付着性を抑制する因子の探索を行った。ビールの苦み成分である「フムロン」処理により、RSVの細胞内複製量が抑制され、それにともないIL-8, RANTESの産生が抑制されることを見出した。また、抗菌薬である「クラリスロマイシン」を処理した場合でも、RSV感染により産生されるケモカイン量を抑制し、さらに呼吸器系細胞表面にある肺炎レンサ球菌の受容体「PAF受容体」の発現をおさえ、肺炎レンサ球菌の付着を抑制することを見出した。 これらの化合物処理がRSV感染鼻粘膜細胞、呼吸器細胞におけるケモカイン産生の抑制および細菌の二次感染抑制を複合的に促進することは、現在ヒト型モノクローナル抗体治療しか特異的な治療方法がないRSV感染に対して、新たな治療方針の可能性を示唆する結果を得た。
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