研究課題
本研究ではJFH-1株以外のウイルス株を用いた新規HCV感染増殖系の樹立を目的としている。本年度は遺伝子型2bのMA株を用いた感染増殖系の樹立を目指し研究を行った。 遺伝子型2aのJ6CF株は、NS3ヘリカーゼ領域(N3H)とNS5B-3’X領域(N5BX)をJFH-1株に置換するとウイルス産生が可能であった(Murayama et al., JVI 2007)。また、MA株は非構造領域をJFH-1株に置換することにより効率よいキメラウイルス産生が可能となる(MA/JFH-1株)。そこで、J6CF株の知見を参考にMA株の複製に必要な最少のJFH-1領域を同定した。その結果、MA株の5’UTR、N3HおよびN5BXをJFH-1株に置換することにより、MA/JFH-1株と同程度のゲノム複製能を持つ株が得られた(MA/N3H+5BX- JFH1株)。 MA/N3H+5BX-JFH1株は、ゲノム複製は可能であるが、感染性ウイルス産生の効率が低かったため、長期培養し、感染性が上昇した変異ウイルスを得た。変異ウイルスから5カ所の変異を同定し、それらの変異の導入によりMA/JFH-1株と同程度の感染性ウイルス産生能を持つ株が得られた(MA/N3H+5BX- JFH1/5am株)。 MA/N3H+5BX-JFH1/5am株のIFN感受性について、JFH-1株およびMA/JFH-1株と比較した。JFH-1株はIFNに耐性を示した。MA/JFH-1株およびMA/N3H+5BX-JFH1/5am株はともにIFNに感受性であったが、両者の間で比較すると、MA/N3H+5BX-JFH1/5am株はよりIFNに感受性を示した。 遺伝子型2bのMA株を用いた感染増殖系が樹立できたことにより、HCVの生活環における遺伝子型またはウイルス株による差異や、薬剤感受性の違いについての比較検討が可能となった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、遺伝子型2bのウイルス株を用いて、新規HCV感染増殖系を樹立できた。さらに、この感染増殖系を用いて、遺伝子型2bのHCV株のインターフェロン感受性について評価し、遺伝子型2aのJFH-1株よりもインターフェロン感受性が高いことを明らかにした。以上の研究成果は学術誌に投稿し、発表した (Murayama et al., JVI., 86(4): 2143-2152, 2012)。以上のことから、平成23年度はおおむね順調に進展している。
昨年度は遺伝子型2bのウイルス株(MA株)を用いた新規HCV感染増殖系を構築した。MA株はそのままの配列では複製もウイルス産生もできなかったが、一部の領域(5’UTR、NS3へリカーゼ、N5BX)をJFH-1に置換することで複製ができるようになり、さらに適応変異を導入することにより、感染性ウイルス産生もできるようになった。また、以前の検討で、遺伝子型2aのJ6株でも同様の領域のJFH-1株への置換により複製およびウイルス産生が可能となっている(Murayama et al., JVI., 2007)。しかし、それらのキメラウイルスはJFH-1に置換した領域を含んでいるため、抗HCV薬感受性などの評価には、置換した領域が影響する可能性があり、更なる改良が必要である。そのため、本年度は、J6株、MA株にそれぞれにおいてJFH-1への領域置換と同様の効果を持つ点変異を同定し、点変異のみを導入することによりそれぞれのウイルス株を複製およびウイルス産生可能な株へと改変することを目的とし研究を行う。具体的な方法としては、NS3ヘリカーゼ領域またはN5BX領域のみをJFH-1に置換したコンストラクトを作製し、それらのRNA導入細胞を長期培養することにより、複製およびウイルス産生を上昇させる適応変異を同定する予定である。また、本年度は遺伝子型1bのウイルス株についても同様の方法で検討する。
平成24年度の研究費の内訳は、消耗品費として110万円、旅費として20万円、謝金等で20万円、その他で20万円を予定している。消耗品として、HCV感染細胞培養関係のプラスチック製品、HCV core 測定キット、HCV RNA測定試薬等の購入を予定している。研究成果発表のための旅費としては、国内学会 (肝臓学会、日本ウイルス学会)の交通費および学会参加費での使用を予定している。謝金等は実験補助および投稿論文校正などに、その他は通信費および投稿料などに使用予定である。
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