研究課題
感染性C型肝炎ウイルス(HCV)の産生を阻害する低分子化合物を用いて、HCV産生メカニズムの解析を行った。これまで化合物スクリーニングによりhalopemideが感染性HCV産生を低下させることを見出している。今回はhalopemideが、1)どの標的分子を介して抗HCV作用をもつのか、2)HCV生活環のどのステップを阻害するのか、3)HCV感染性に重要なアポリポタンパク質産生に影響を与えるのか、に関して主に解析した。1)halopemideがもつ主な作用であるドパミン受容体およびphospholipase D (PLD)阻害のうちいずれが抗HCV効果に重要かを、化合物及びsiRNAを用いて検討した。Halopemide以外のドパミン受容体阻害剤4種類はいずれもHCV産生に有意な影響を与えなかったが、他のPLD阻害剤2種類はいずれも感染性HCV産生を低下させた。またsiRNAにより内在性PLD1/2を発現低下することでHCV感染性の減少が見られた。以上より、halopemide はPLDの阻害により抗HCV作用を発揮することが示唆された。2)HCV生活環のうち、吸着/侵入のみを評価できるHCVシュードタイプウイルス系及び翻訳/RNA複製を再現するHCVレプリコン系を用いたところ、halopemideはこれらの活性には大きな影響を与えなかった。また感染性HCV産生系においてhalopemideは細胞内HCV感染性にも有意な影響を及ぼさなかった。以上よりhalopemideはHCV生活環のうち会合の後、放出過程を阻害することが示唆された。3)halopemideはHCV coreの細胞外への放出を低下させるが、アポリポタンパク質E放出には影響しなかった。 またその他の結果の一つとして、AR阻害剤を用いた同様の解析により、これはHCV生活環の会合を阻害することが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
今回の結果より、PLDがHCVの会合後、膜輸送/放出過程を制御することが示唆された。これまでHCVの会合後のイベントを制御するメカニズムに関しては多くが不明のままであるが、今回の結果はこのメカニズムを解析するために非常に有用な知見であるとともに、会合後のステップが抗HCV剤の創薬の標的になる可能性を示すものである。本年度は当初の予定以上に順調にPLD阻害剤のメカニズム解析がおこなわれ、本研究結果に関する学会発表もおこなった。また近々論文作成に必要な結果をすべて得られると期待できる。一方AR阻害剤を用いた解析では、これはHCV生活環の会合ステップを阻害することが示唆されたが、どのようにHCV会合を阻害するかに関しては次年度に解析する予定である。またさらなる化合物スクリーニングにより、新たな抗HCV化合物を4剤得たが、これらを用いたメカニズム解析に関しても次年度おこなう予定である。
本年度の研究結果により、HCV放出過程を阻害する化合物が存在すること、これは細胞増殖を抑制しない濃度において抗HCV作用を有することが示された。本結果は、halopemideがHCV放出過程のメカニズム解析に有用であるだけではなく、HCV放出過程あるいはPLDが新たな創薬の標的になりうることを示唆している。従って次年度の中心的な課題の一つとして、halopemide誘導体を用いることにより、より抗HCV効果が高く、毒性が低い化合物を探索するとともに、PLDを標的とする別の化合物に着目し抗HCV化合物の取得を目指す。またPLD阻害剤を用いたさらなる解析によりHCV放出制御機構の一端を明らかにするとともに、AR阻害剤を用いて会合過程の解析も進める。さらに化合物スクリーニングにより得た新たな抗HCV化合物および未解析の化合物群に関しても、HCV生活環中の標的ステップに関する解析をおこない、HCV放出/会合以外を阻害する化合物が存在するかどうかを調べる。
次年度も引き続き培養細胞およびウイルス感染実験系を主に用いた解析をおこなう。そのために必要な各種培養関連試薬、プラスチック/ガラス製品、タンパク質実験試薬、RNA関連実験試薬などの購入のため物品費を計上する。また学会等で成果発表をおこなうための旅費、実験補助に要する謝金、英論文校正費および論文投稿料に要するその他経費をあわせて計上する。本年度の研究費の一部を次年度に使用するが、これは放出メカニズム解析のための電子顕微鏡実験、PLD活性測定系、HCV会合解析のための脂肪滴/脂肪定量実験に係る費用、さらにhalopemide誘導体購入費など、次年度の実験を遂行するために本年度よりも費用を要すると考えられるためである。
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