ウイルスの生活環を研究するためには、実験室内でウイルスの増殖サイクルを再現することが必須である。発がんウイルスであるヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)の増殖は、感染宿主である角化細胞の分化に依存しているため、培養細胞から感染性ウイルス粒子を得ることができない。本研究は、本来表皮形成の終盤でしかおこらないHPVゲノムの大量複製(後期複製)を、人為的な操作で誘導できるウイルス産生細胞を確立することにより、培養角化細胞から感染性HPV粒子を簡便に調製する方法を開発し、得られた感染性ウイルス粒子を用いて実験室内でHPV増殖サイクルを再現することにより、HPV生活環の分子基盤を明らかにすることを目的としている。 HPV潜伏持続感染様の培養角化細胞を樹立し、その細胞にテトラサイクリン発現誘導系を用いてウイルス複製因子E1およびE2の過剰発現を誘導することにより、HPVゲノム大量複製の誘導を行った。結果、培養角化細胞において、人為的な操作によりHPVゲノム大量複製を誘導することに成功した。しかし、ゲノムコピー数は、E1・E2発現誘導後24時間をピークとしてそれ以上に増加しなかった。またE1の発現に伴って、角化細胞の増殖が抑制されることを見つけた。より大量のウイルス粒子産生を達成することを目的とし、引き続きE1・E2発現によるゲノム複製が誘導後24時間程度で鈍化する分子機構について検討した。結果、E1のヘリカーゼ活性に依存して、DNA損傷修復系の主要なキナーゼであるATMおよびNFκBが活性化し、それらの活性化はウイルスゲノム複製に対して抑制効果があることが分かった。一方でこれらの因子は、E1による角化細胞の増殖抑制には関与していなかった。今後はこれらの知見に基づいて、より大量のウイルス粒子を産生できる培養系を確立したい。
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