研究課題
小腸パイエル板の上皮層に存在するM細胞は管腔内の抗原の取り込みを行い、粘膜免疫応答の開始に働く。M細胞は基底膜側で、免疫系細胞と物理的に接触し密に相互作用することでその機能が発現している。本研究代表者は、M細胞と免疫細胞との相互作用機構を明らかにすることを目的として研究を行なっている。細胞間相互作用機構を明らかにするために、細胞遊走に関わるケモカインに着目した。先行研究から、CCL9がM細胞に特異的に発現しているが明らかになっている。そこで、CCL9の受容体であるCCR1を発現している細胞の解析を進めるため、マウスCCR1に対するポリクローナル抗体を作成し、免疫組織化学染色を行った。その結果、パイエル板上皮層の下部の濾胞上皮下領域に発現していることを明らかにしている。当該年度はこの免疫組織化学法の結果を確認するために、in situ hybridization法を用いて解析を進め、CCR1 mRNA発現細胞は上皮下濾胞領域に存在することを明らかにしたパイエル板における免疫応答機構と、上皮細胞-免疫細胞間の相互作用機構はCCL20-CCR6が関わることが報告されており、この場合はT細胞応答が有為に低下することが知られている。我々の解析ではCCR1陽性細胞とCCR6陽性細胞は異なる細胞であること、CCL20が濾胞上皮層全体に発現しているのに対して、CCL9はM細胞に限局して発現していることから、明らかに異なる役割を担っていると考えられる。マウスにおけるCCR1の解析は、発現細胞の同定が困難であることから進展しない。CCR1陽性細胞の性質を明らかにする上で、免疫組織染色、フローサイトメトリー、in situ hybridizationによるCCR1のタンパク質、mRNA両方での発現を確認できる実験系の構築は不可欠であり、当該年度の研究成果によってその実現に一歩前進した。
4: 遅れている
当初の予定通り、CCR1陽性細胞の解析行うために、Taconic社からCCR1ノックアウトマウス (CCR1 KOマウス)を購入した。我々の作成したCCR1抗体、CCL9-Fcタンパク質を用いて、CCR1 KOマウスの解析を行ったところ、予想に反してKOマウスでも野生型マウスとほぼ変わらないシグナルが得られた。構築された時のターゲティングベクターの構造を文献により確認すると、使用したCCR1 KOにおいては開始コドンが残っており、アミノ酸にして全長の1/3の長さのペプチドが合成される可能性が明らかになった。実際、mRNAの発現をリアルタイムPCRで確認すると、5’末端は野生型マウスと比較してほぼ同じ量のmRNAが検出された。我々が抗体作製に使用した抗原ペプチドはCCR1のN末端であるため、KOマウスにおける免疫組織染色の結果は不完全な長さのCCR1を検出したものである可能性が考えられる。リガンドであるCCL9とCCR1の結合に必要な箇所は明らかにはなっていないが、ケモカイン受容体の構造は分子間で高く保存されており、N末端ドメインがリガンド結合特異性を決定すると考えられているため、こちらも同様な理由でシグナルが検出されているものと思われる。購入したCCR1 KOマウスがこのような状態であったため、今後の解析に与える影響は大きく、その対処を検討している。
CCR1 KOマウスで抗体、CCL9-Fcを用いた検出系の評価を行う予定であったが、前項の理由のとおり、予想外の結果であった。そのため、蛍光in situ hybiridizationと免疫組織化学染色を組み合わせて解析することで、CCR1陽性細胞の特定の確認を行うことで検出方法の評価を行う。CCR1 KOマウスではパイエル板免疫細胞の主要な免疫細胞の割合に大きな変化はなく、またCCR1を発現している形質細胞の数、局在にも変化は確認できなかった。さらに、サルモネラ菌投与に対する、糞便中のIgA産生量も同様な結果であった。前項の理由からこのKOマウスを用いての結果の解釈は難しく、本研究計画に適したものでは無いと考える。CCR1にはin vivoで効果のある阻害剤が報告されている。今後、これらの阻害剤の使用を検討するとともに、新たにKOマウスの作成を行う計画を立てる。
論文投稿、研究発表が当初の予定から大幅に変更になったため、当該年度の旅費、投稿論文査読、投稿費用が残った。次年度では実験計画の変更があり、消耗品の購入が必要となるためそこで使用する。次年度では in situ hybridization法のための消耗品、CCR1阻害剤の購入費用、KOマウスのターゲッティングベクターの作成費用として、主に消耗品として研究費を使用する計画である。
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Gastroenterology
巻: 141 ページ: 621-632