研究課題/領域番号 |
23790526
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴田 琢磨 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (30554505)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 自然免疫 / TLR |
研究概要 |
Toll Like Receptor (TLR) ファミリーは免疫細胞に高発現する病原体認識レセプターである。同分子群は様々な免疫応答を惹起することで生体防御に必須の役割を果す一方、過剰応答により自己免疫疾患の発症に関与することが報告されている。この為、TLR応答の厳密な制御は恒常性の維持において必須である。23年度は、新たに同定したTLR関連分子Eのトランスジェニックおよびノックアウトマウスを作製し、同マウスより得られた免疫細胞の解析を行った。以前に作製した分子EのKOは胎性致死であったが、新たに作製した分子Eのconditional KOでは正常な全身KOマウスを得ることが可能であった為、解析には分子Eの全身KOを用いた。分子Eの発現量の変化は、作製したポリクローナル抗体を用いて確認した。In vitroの実験系において、分子Eのノックダウンは複数のTLR応答を顕著に増長した。しかし、分子EのTgおよびKO由来の骨髄マクロファージおよび樹状細胞では、in vitroの結果とは異なり、TLRリガンドに対する応答に優位な差が認められなかった。また、同マウスにおけるTLR1/2/4/5/6の細胞表面も分子Eの発現量変化の影響を全く受けなかった。以上の結果より、TLR会合分子である分子EはTLRの細胞内分布や応答を直接的に制御する分子ではないことが判明した。一方、分子EのKOおよびTgマウスを半年にわたり飼育・観察した結果、分子EのTg(n=15)は4~5カ月以内に死亡することが判明した。体調不良を呈した分子EのTgでは、削痩や重度の腫脹が認められ、心臓の肥大および心筋の菲薄化が認められた。今後、これらの現象が分子Eの強制発現に伴うTLR応答の変化によるものか否かの解明を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、分子EがTLR応答の制御に必須であるという仮定で研究を推進してきたが、in vivoでは分子EとTLRに明確な関連は認められなかった。一方、分子EのTgマウスは心筋症や腸炎を自然発症することが見出され、分子Eの発現量の変化が生体の恒常性維持に大きく影響を与えることが判明した。以下、予定していた研究内容の達成度の詳細を記載する。分子E cKOおよびTgマウス、抗分子Eモノクローナル抗体の作製 : マウスの作製に関しては、全身TgおよびKOに加えてLyzsM-CreやTie-2 Creとの交配によるConditional TgおよびKOまでを作製済みである。モノクローナル抗体の作製に関しては、免疫動物としてBalb/cに5回バッククロスした分子E KOマウスを作製した。現在、分子E強制発現細胞による免疫を継続中である。分子E KO/Tgマクロファージ・樹状細胞におけるTLR応答の解析: 分子E KOおよびTgマウス由来のマクロファージ/樹状細胞におけるTLR応答を網羅的に解析したが、in vitroでのデータとは異なり、TLR応答に顕著な変化が認められなかった。また、新たに樹立したTLR5抗体などを用い、TLRの細胞表面発現も解析したが、顕著な変化は検出されなかった。生体内免疫応答における分子Eの役割:分子EのTgマウスは、4~5ヶ月齢までに体重減少またはその後の急激な体重増加を呈して死亡した。一部の分子E Tgマウスでは全身皮下における浮腫、胸水や腹水の貯留が認められ、心筋の菲薄化に伴う高度の心腔拡張が認められた。病理組織学的所見では、肺のうっ血を示唆するヘモジデリン貪食マクロファージ(心臓病細胞)が肺胞内に浸潤していた。また、心筋では高度の錯綜配列や線維化が認められ、心筋内に広範な炎症巣を伴っていた。
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今後の研究の推進方策 |
新たに得られた結果は、分子Eの過剰発現が拡張型心筋症に関与する可能性を示唆している。分子EはTLRと会合することから、これら表現型とTLRとの関連に焦点を当てながら分子E Tgマウスの解析を更に進める。1.抗分子Eモノクローナル抗体の作製:Balb/cバックグラウンドの分子E KOマウスを用い、抗分子Eモノクローナル抗体を作製する。2.分子E会合分子の同定:分子Eによる免疫応答制御メカニズムの解明を目指す為、作製したモノクローナル抗体を用いて分子Eと共沈殿するする分子E会合分子群の同定を行う。同定された分子群に関しては、細胞株を用いて分子Eとの会合を確認すると共に、各々の分子のノックダウン細胞を用いて機能解析を行う。3.恒常性維持における分子Eの役割:分子Eの過剰発現は拡張型心筋症(DCM)様の症状を引き起こす。分子EはTLRの会合分子であることより、最初にTLRがこれら疾患に関与する可能性を探索する。これら症状におけるTLRの役割は、TLRシグナル伝達に必須のアダプター分子MyD88 またはTRIFを欠損させた分子E Tgを作製することで解析する。DCM様症状がこれらアダプター分子の欠損で消失した場合、更に分子E Tgマウスにおいて様々なTLRを欠損させ、DCM発症に関与するTLRの同定を行う。4.拡張型心筋症と分子Eの関連:ドキソルビシンは抗腫瘍剤として汎用されるが、その副作用としてDCMの誘発が知られる。発症機序は不明だが、ドキソルビシンの連続投与はC57BL/6マウスでDCMを再現する為、ヒトと同様のDCMを簡便に再現できるマウスの実験系として用いられる。分子Eの発現上昇はDCMの発症要因となることより、分子E KOおよびTgマウスを同実験系で用いることで同分子がヒトのDCMの発症に関与する可能性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.試薬:研究計画の実施において、ドキソルビシンなどの分子生物学用試薬、細胞培養用試薬、生化学的な解析のための抗体が必要となる。2.実験用動物:本実験では多くの遺伝子改変マウスを使用する為、その飼育費用が必要となる。3.プラスティック器具:マウスより得られる初代継代細胞および培養細胞の解析の際には細胞培養が必須であり、その為のプラスティック器具が必要不可欠である。4.旅費:当研究により得られた結果は国内での学術学会で発表を行う。5.その他:分子Eと会合する分子を同定した後、LC-MS-MSを用いたタンパク質の同定を行う。同解析は外部受託により行う為、その費用が必要となる。
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