B細胞膜型タンパクCD72は自己免疫発症との相関が示されているがCD72の細胞外領域のCタイプレクチン様領域(CTLD)のレクチン活性の有無とその糖鎖リガンドについては明らかになっていない。本研究では、まずCD72の精製組換えタンパクを用いてCD72糖鎖リガンドの網羅的な探索を糖鎖アレイにより行い、ある種の硫酸化糖鎖とCD72が相互作用することを明らかにした。次にCD72とCD72リガンドの相互作用がB細胞抗原受容体シグナルにどのような影響を与えるか調べるため、ほとんど全てのB細胞がニトロフェニル基(NP)に反応性のQM (quasi-monoclonal)マウスとQM/CD72欠失マウス由来のプライマリーB細胞とを用いて、NP架橋したCD72リガンドとNP架橋した非CD72リガンドでB細胞抗原受容体刺激を加えた場合の細胞内カルシウム濃度を解析し、CD72リガンドによってCD72を介したBCRシグナルの抑制が起きる事を示した。本年度はさらにCD72の欠損によってCD72リガンドに対する抗体産生が増加するかをCD72欠失マウスと野生型マウスで解析を行い、CD72リガンドに対する IgM クラスの血清中の抗体量がCD72欠失マウスで増加していることを明らかにした。 これらの結果はB細胞表面上のCD72が、そのリガンドに対するB細胞の活性化を抑制することでそのリガンドに対する抗体産生、免疫応答を抑制していることを示唆するものであり、まだ明らかになっていないB細胞による自己と非自己の新たな識別機構を示すものである。このような自己と非自己の識別機構の解明は、自己免疫疾患の発症機構の新たな理解につながるものである。またB細胞表面上のタンパクが直接そのリガンドに対する抗体産生を抑制することで自己免疫応答への障壁として機能しているという概念を提唱するものである。
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