研究課題
造血幹細胞・前駆細胞は骨髄に存在するニッチ(niche)と呼ばれる特殊な微小環境によって維持されていると考えられており,私たちはケモカインCXCL12を高発現する細網細胞(CAR細胞)が,ニッチを構成する特別な間葉系前駆細胞であることを証明した.この知見により,造血・免疫系形成に必須のCAR細胞の形成機構の解明は,免疫系形成の理解のために重要な問題となった.そこで本研究ではCAR細胞の形成を調節する分子基盤を解明するために,CAR細胞特異的な遺伝子に注目し,その役割を明らかにすることを目的として研究を行い,本年度は以下のような成果を得た.・CAR細胞の形成および機能を調節する分子機構の解明 CXCL12/GFPノックインマウスを用いてCAR細胞と,胎生期の肢芽間充織細胞や,骨芽細胞などの他の間葉系細胞での遺伝子の発現量を比較を行うに先立ち,細胞外マトリクスを除去する手法や骨芽細胞特異的細胞表面マーカーを検討すること等で骨芽細胞をより純化する方法を開発した.そして純化したCAR細胞と肢芽間充織細胞や骨芽細胞からmRNAを抽出し,マイクロアレイやRT-PCR法により発現遺伝子の比較解析を行い,CAR細胞特異的に発現する遺伝子のうちCAR細胞の形成およびニッチとしての機能に関与する可能性のある分子を複数同定した.・CAR細胞の培養による解析 CAR細胞の自己複製能や多分化能について解析するためにはシングルセルレベルでCAR細胞を培養する系の確立が重要であったがCAR細胞を蛍光細胞分離装置を用いて分離すると,従来の骨髄細胞の培養条件ではほとんど培養することができなかった.そこでCAR細胞に至適な培養条件の検討を行い,少ない頻度ながらシングルセルレベルでCAR細胞を培養する系が構築されつつある.
2: おおむね順調に進展している
おおむね申請時の研究計画に沿って研究が進行している.特にCAR細胞特異的に発現する遺伝子のうちCAR細胞の形成およびニッチとしての機能に関与する可能性のある分子を複数同定できたことで,次年度それらの分子の機能を明らかにするための研究へと順調に推移している.またシングルセルレベルでのCAR細胞の培養系が確立されつつあることで,CAR細胞の間葉系前駆細胞としての機能の解明に向けて着実に前進している.
前年度に同定されたCAR細胞特異的遺伝子のうち,必須の機能が期待できる転写因子やシグナル受容体等の遺伝子については,CXCL12-GFPノックインマウス由来の胎児線維芽細胞や胎児間葉系細胞から樹立されたCXCL12を発現しない細胞株であるNIH/3T3に強制発現させ,CXCL12や骨芽細胞・脂肪細胞特異的遺伝子の発現を誘導するか否かを明らかにする.これらの遺伝子発現を誘導する遺伝子については,遺伝子欠損マウスを作製し,そのマウスのCAR細胞の形成や造血・免疫細胞のニッチとしての機能について解析する.
研究計画を遂行するため,主に実験動物の購入や,抗体やサイトカイン等の試薬,プラスチックディッシュ等の消耗品の購入に使用する. また一部研究費は,申請者が学会等に参加するために適正に使用する.
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Trends Immunol.
巻: 32(7) ページ: 315-320
doi:10.1016/j.it.2011.03.009.
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21536740