研究課題
近年、自然免疫機構の活性制御が獲得免疫系の異常で起こる自己免疫疾患の誘発に関与していることが報告されており、炎症性腸疾患の新規治療法開発においては自然免疫系を中心とした発症原因究明の必要性が示唆される。そこで、本申請者は新規の腸管粘膜固有層内ミエロイド細胞サブセットによるT細胞活性化制御機構の解明を試みている。これまでに、腸管粘膜固有層に局在するCX3CR1highCD11b+CD11c+細胞を腸炎モデルマウスに移入すると腸管炎症を抑制することを明らかにしていた。平成24年度には、CX3CR1highCD11b+CD11c+細胞が細胞接着分子であるICAM-1/VCAM-1を高発現し、ICAM-1/VCAM-1を介してT細胞と高親和性に結合することを明らかにした。さらに、CX3CR1highCD11b+CD11c+細胞ではIL-10/Stat3シグナル依存的にCD80/CD86の発現が抑制されており、ICAM-1/VCAM-1を介して結合したT細胞に増殖刺激が入らないことを明らかにした(Proc Natl Acad Sci USA. 109 (13): 5010-5 (2012))。さらに、CX3CR1highCD11b+CD11c+細胞のin vivoにおける重要性を明らかにするため『選択的細胞ノックアウト法』を用いたCX3CR1highCD11b+CD11c+細胞欠損マウス作成の一歩として、DNAマイクロアレイのデータよりCX3CR1highCD11b+CD11c+細胞において発現の高い遺伝子XにCreを発現させたマウスの作成を試みた。しかし、タンパク質レベルでのCreの発現が確認されなかったことより、現在、新規遺伝子プロモーターを用いたCreマウスの作成を試みている。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記載した、平成24年度実験計画① in vitroにおける分子機構の同定、②『選択的細胞ノックアウト法』を利用したCX3CR1highCD11b+CD11c+細胞欠損マウス作成の開始をともに行うことができているため。②に関しては、当初対象としていた遺伝子Xのプロモーターを用いたCreマウスを作製したがタンパク質レベルでのCreの発現が確認されなかったことより、DNAマイクロアレイの結果を参考にして、新規遺伝子プロモーターを標的としたCreマウスの作成を試みている。
「選択的細胞ノックアウト法」によりCX3CR1highCD11b+CD11c+細胞欠失マウスを作成する。まず、DNAマイクロアレイで発現の高かった遺伝子Yプロモーター下にCreを発現させたマウスを作成する。一方、CD11c, CD11bの遺伝子座に、flox配列ではさまれたneo-polyAを挿入し、その直下にDTA遺伝子を挿入したマウスをノックインマウスの作成法に従って作成する。このマウスでは、Creが作用し、flox配列で挟まれたneo遺伝子が排除されると初めてDTAが発現し、細胞死が誘導される。この両マウスを使用し、Y-cre;CD11c-DTAおよびY-cre;CD11b-DTAマウスを作成し、CX3CR1highCD11b+CD11c+細胞欠失マウスを作成する。次に、CX3CR1highCD11b+CD11c+マウスで、腸管粘膜固有層でのTh1/Th2/Th17あるいは制御性T細胞の数を解析する。また、腸管炎症が自然発症するかを観察するとともに、デキストラン硫酸塩により腸管炎症を誘導し、その病態変化を観察する。さらに、IL-17, IFN-, IL-10などの遺伝子に蛍光たんぱく質遺伝子を組み込んだマウスを用いて、CX3CR1highCD11b+CD11c+細胞欠失マウスにおいて定常状態でこれら各自然免疫細胞サブセットおよびエフェクターT細胞、制御性T細胞が、腸管粘膜固有層のどの部位に局在しているかを解析する。また、上述の腸管炎症誘導の際にどのような動態を示すのかを、二光子励起顕微鏡を用いて観察する。これらの解析により、個体レベルでの腸管免疫系におけるCX3CR1highCD11b+CD11c+細胞の機能を明らかにする。
25年度の研究費使用予定:計136万円。その内訳として以下を予定している。消耗品費:遺伝子改変マウス作成および腸管免疫細胞の解析のための試薬(23万円)・実験器具(23万円)・実験動物(15万円)、論文別刷り(10万円)。計71万円を予定している。設備備品費:超音波洗浄機(34万円)、自然免疫学を重点におく図書(6万円)。計40万円を予定している。旅費等:学会における成果発表の旅費(10万円)、論文投稿料・印刷費(15万円)。計25万円を予定している。
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